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ULTRA-TRAIL Mt.FUJI /参戦レポート(万場大)
2023年のUTMFはコロナ禍以前と同様に海外からの参加者を迎えて開催。また例年どおり100マイルと69kのふたつのレースでしたが、その名前はそれぞれ「FUJI」と「KAI」に改められました。今回のレースレポートはインタビュー形式でお届けします!
FUJI:万場大選手インタビュー
2022年のUTMFは3位入賞、今回のレースでも注目度の高かった万場大さん。2月に両足を疲労骨折したときのダメージを抱えての出場ながら、21時間24分7秒で4位という驚異の成績でフィニッシュ。レース後、全行程の走りについてうかがいました!
万場大さんプロフィール
高校生のときにウエイトリフティングを始め、28歳までジムで筋肉を鍛え続ける。一方で18歳から登山を始め、21歳のときに神戸マラソンの抽選に当たったことからランの世界へ踏み込み、22歳からトレランもスタート。UTMFをすぐに目標にして今回で6回目のチャレンジ。2022年はOSJ ONTAKE 100 100kmで優勝、UTMB Mont-Blancでは日本の選手として首位の27位で完走、ハセツネダブル 132kで2位。2023年は2月のTarawera Ultramarathon 100mile を15時間11分、総合2位という好成績を残し、8/28~9/3に開催されるUTMB Mont-Blanc(UTMB/171k)への参戦が決定している。
―前回に続いて今回のレース展開もスタッフ一同、そわそわしながら状況チェックしていました。万場さんの表情を見ていて淡々と進んでいたように見えたんですが、全体を振り返ってみてどうでしたか?
今回は気温が高く、苦痛な時間がとにかく長かったというのが率直な感想です。目標タイムを19時間30分に設定していて、ケガがなければ20時間は切れたんじゃないかと思っています。着地の足への衝撃を減らすために力んでいて、登りでもなかなかスピードが出ませんでした。一方で「ケガをしていてもこれだけ走れる」というのは自信になりましたね。
―両足骨折の情報も驚きでしたが、予定通り出場することも衝撃でした!棄権をしようとは思わなかったんでしょうか。
そうですね、グレートレース(NHKのドキュメント番組)の取材が入っていたのが大きかったかな(笑)。自分の活動を職場の人も応援してくれていて、それがすごくうれしくて励みになるんです。その職場の人たちや家族に見てもらえるメディアがテレビなんで、がんばって出なくてはと。でも無理はしないと決めていました。
―サポートなしでの参戦、エイドでも入ってきたと思ったらもういないっていうくらい滞在時間が短かったのも印象的でして。どういう作戦だったのかを教えてください。
お互い気をつかわなくていいようにサポートはつけないことは決めていました。加えてタイムを1分縮めるにはペースを上げるよりもエイドの滞在時間を短くする方が効果的だと考えて、エイドでの補給はバナナ2本のみ、また水の補給を忘れないように、エイドが近づいたらフラスクのフタを開けておくを徹底しました。やることもこの2点だけなのでエイドワークは時間かからないですね(笑)。
スタート時にザックに入れていた補給食は、粉飴ジェル26個(途中、ドロップバッグから32個追加)、ミドリ安全の塩熱サプリ、MCTオイルゼリー5本。箸を使わないで食べられるもの、加工せずに食べられるものだけです。ジェルはトレイル中の25分に1回補給し、エイドで空のパックを捨てるを繰り返していました。暑かったので持っていた塩熱サプリは完食、エイドでいくつか追加しました。本栖湖のエイドではバナナがなくて、みのぶまんじゅうを食べましたね。
今回に限らず胃腸トラブルはほとんど経験がなくて、FUJIだから特別ななにかを用意したこともないです。気をつかっていることといえば、普段は栄養バランスを考えて3食自炊していることでしょうか。
暑さがキツかった序盤。いつもより水がなくなるペースも早かった
―スタートからF1富士宮〜F2麓〜F3本栖湖までの様子はどうでしたか。
スタート直後は下り基調の林道が続くので走りやすいんですが、今回はとにかく暑くて1キロ4分30秒くらいのペースで走っていました。いつものジョグくらいのペースですね。最初の富士宮エイドには1時間56分で到着しました。
序盤は天子山地(天子ヶ岳・長者ヶ岳・熊森山)の登りがキツかったですね。熊森山あたりで日没でしたが気温が下がらず、麓エイド到着前は発汗量がものすごいことになっていました。塩熱サプリの摂取もいつもは30分に1個なのに15分に1回とか10分ごとに2錠摂るほどで、さらに比較的平坦な道からの山登りということもあって水を消耗してしまい、脱水の危険性もありました。稜線も風はなく、細かなアップダウンが続くので脚の状態よりも水が足りるかどうかが気になって仕方がありませんでした。
麓エイドでは脱水気味だったのを感じていたので水を1リットル飲むことは決めていて、ここでもバナナ2本、フラスクへの水の補給も忘れずに行いました、日が暮れても体温低下はとくに感じなかったですね。
「FUJI」は富士山こどもの国(富士市)をスタートし、時計回りで富士急ハイランド(富士河口湖町・富士吉田市)、山中湖畔(山中湖村)を経て富士急ハイランドでフィニッシュする164.7km (累積標高:+6,451m / −6,493m)のコース。2,400人の選手は600人ごとの4つのウェーブに分かれてスタート。4月21日金曜日14時30分に第一ウェーブがスタート、その後15分間隔で15時15分に最後の第4ウェーブがスタート。制限時間は各ウェーブともに23日日曜日11時30分に設定され、第4ウェーブの場合は44時間15分だった。
―本栖湖から精進湖まではほかの選手に比べて足を上げない独特な走り方に見えました。
疲労骨折の影響で強く着地をするのに不安があったんで、「脚を置いていく」というのを心掛けていたからだと思います。下りでがんばれないぶん登りをがんばる予定が、やはりいつもの走りとは違う、跳ねられない感じで結果登りも遅くなってしまいましたね。自分的には納得のいかないペースでした。精進湖エイドでもバナナ2本と水を補給してサッと出ました。
富士急ハイランドのエイドでは5分座って休みを取りました。いつも眠くならないように中盤でエナジードリンクを飲むんです。あとはアミノバイタルゼリー2個を摂り、ドロップバックから粉飴ジェルを取り出してザックのフロントポケットに入れてから出発しました。
F6忍野〜F7山中湖きらら〜F8二十曲峠で膠着状態に変化が
忍野エイド直後のロードで鬼塚さんに追いつかれて、その後、長時間一緒に走りました。先のコースのことや仕事のことなど、いろいろ話しながら。基本的には1人で走りたいと思っているので、他の選手と長い時間一緒に走ったのも初めてのことでした。ペースが合っていたのと自分がしんどかったから助けられましたね。
山中湖きららエイドではバナナ2本と鬼塚さんからコーラがあることを教えてもらい、コーラも摂取、フラスクへの水補給は気温がそれほど上がっていないと感じたので1.5Lから1Lに変更。
山中湖きららエイドは自分が先に出たのに大平山で鬼塚さんに追いつかれ、またも並走。このあたりで日が出てきて明るくなってきたんですが、自分的には精神的にキツい区間でした。アップダウンが連続する区間なので励まし合いながら乗り切りました。
鬼塚さんとの並走は精神的な支えになりましたね。自分一人だけだったら歩いていたかもしれません。鬼塚さんとは3、4位争いをしているというよりは、ふたりで5、6位のランナーから逃げている感覚でした。
二十曲峠から杓子山までは長い登りなので、自分が鬼塚さんを引っ張っていく感じで、偽ピークにふたりでガッカリしながら(笑)、山頂にはあっさり着きました。鐘を鳴らして、下りだから先に行ってくださいと言った瞬間から自分がついていけず一気に差がつきました。
その後ロードに入ってからはゆっくりペースで走り、霜山の登りは3.6kmで600mアップと水平移動が多い登りで好きな区間でしたが、歩幅が小さくなっているのがわかって長く感じましたね。ずっとカラダにブレーキをかけすぎて走っていたため股関節の筋肉痛がひどく、カラダ全体に痛みを感じていました。
後ろのランナーとの差が18分あったので4位の確信はあったけど、歩くのはなしと決めてなんとか走り続けました。天上山から富士急ハイランドまでの道は足元が悪いので転ばないようにだけ気をつけていました。
ゴール目前でやっと緊張から解放された
―ご家族の方が手作りうちわで応援されてました! クオリティ高くて何度も見ちゃいました。
あれは恥ずかしさ半分、うれしさ半分、でしたね(笑)。
富士急ハイランドに入ったときは、今回のレースは苦痛な時間が長かったので「やっと終われる」という気持ちの解放感があり、ゴール付近の応援の人たちの姿が見えてうれしかったですね。ボランティアの方々にも名前をたくさん呼ばれてテンションが上がりました。
―万全な体調ではないなかでの上位入賞、そして8月にはUTMB Mont-Blancも控えていますね!
今回のFUJIで、コンディショニングの大切さを痛感しました。
今年のUTMB Mont-Blancは本気で入賞を狙いたいので、ギリギリまでトレーニングを積みつつ、体調を万全にして臨みたいです。
―UTMFを目標にがんばっている方、これからUTMFを目指そうとしている方にメッセージをお願いします。
毎日の練習は嘘をつかない、そして45時間、時間の限りあきらめずに進む、というのが大事だと思います。そしてFUJIの達成感は格別ということも伝えたいです。ゴール後になにをしたいかを考えながら走っていれば楽しくなると思います。僕はスタート前からもう1秒でも早くゴールして風呂入って寝るを目標にしてました。早くスッキリしたかったんですね(笑)。
レース前は落ち着かないし不安も多いですが、最善の策は「とにかく早く寝ること」だと思います。
レースから数日しか経っていないインタビュー当日も午前中は仕事をしていたという万場さん。次々に好成績を記録しながらも飄々としている感じや気さくな雰囲気も、私たちと同じ(じゃないけど)普通の人(じゃないけど)、な気がして勝手に親近感がわいてしまうのです。UTMB Mont-Blancも楽しみしかありません!
今回の装備リスト