若岡拓也の日本列島大縦走

若岡拓也の日本列島大縦走 #6
2023.08.25 若岡拓也

若岡拓也の日本列島大縦走 #6

PAAGO MAGAZINEでは、日本列島大縦走中の若岡さんの走破記録を週ごとにレポしていきます。今週は山形から福島に入り爆走しています。応援やサポートなど多くの仲間に会えてパワーをもらったようです。みなさんもどこかで若岡さんに会ったら、ぜひ写真を撮ってパーゴワークスまで送ってください! どんどん紹介していきたいと思います。

日本列島大縦走の詳細については、こちらをご覧ください!

今週の記録

8/16 33日目 0km

台風7号の影響で強風が吹くため、思い切って休養日に当てた。月山湖のほとりにあるレストイン花笠で停滞。うっかりすると、外に出てジョギングしようかと思いそうになる。なんのための休養なのか。洗濯や荷物の整理を済ませると手持ち無沙汰になる。落ち着かない。先に進めばよかったかなと思いつつ、天気概況を見ると、朝日連峰では風速20m近く吹いている。これでいいのだと言い聞かせる。

8/17 34日目 36.2km

早朝から朝日連峰へ。稜線に出ると気持ちのいい景色が続く。ガレて痩せた箇所やザレもあり、なかなか楽しい。 高松峰の急坂で苦戦する女性3人組と出会う。足取りがおぼつかないように見えた。声をかけると、真逆の方向にある龍門小屋に向かっていたが、道を間違えてしまったという。T字路を反対に進むような豪快な道迷い。地図は持っている。そうなると、地図が読めないのか、読まないのか。同行してあげたいのは山々だが、同じ進度だと僕の水が切れてしまうため、その場で別れた。 大朝日岳の山頂が見えてくる。きれいな三角形がなんとも凛々しい。その手前にある小屋が今日の宿だ。小屋の直前で水場に立ち寄る。金玉水と名付けられた水はよく冷えていて、実にうまい。水場が少ない分、よりありがたみを感じられた。 小屋で新婚夫婦の池田さんと再会。富良野で会って以来だ。裏銀座で山行する予定だったが、台風の接近で、朝日連峰に変更したそうだ。前回はトムラウシに行くはずが、やはり荒天で中止。ひと夏に2度も顔をあわせることができたのは天気のいたずらのおかげだ。

8/18 35日目 58.03km

ぼんやりした頭のまま大朝日岳で朝陽を拝む。美しい。雲海も広がっている。腰を下ろして、ずっと眺めていたいが、足早に平岩山、御影森山とたどって下山した。 頭がすっきりしなかったのは、前日の夕方遅くに小屋へたどりついた男女2人がごそごそしていたから。マイペースに夕食を進め、寝床を整える。そのたびにビニール袋を開ける音が響き、明かりが揺れる。気になって眠れずにいると、男性はウイスキーを飲んで高いびきをかいていた。釈然としない思いに駆られる。 そんなわけで寝不足だった。朝日鉱泉に下りて、何か食べて調子を取り戻そうとすると、本日休業の看板。そばが食べたかった。意気消沈しかけて、ベンチで10分休憩。気持ちを立て直して先に進む。 すぐ近くから頭殿山に取り付く。道の不明瞭なところがあり、ルートから外れる。直登したところ、滑り落ちそうになる急傾斜、藪にはまって、大きく時間をロスした。 下山後はロードで15kmほど走る。気温は35℃近い。暑さでペースが上がらない。帰省していた知人が差し入れを持ってきてくれた。ありがたい。ここから再会が続く。次の白鷹山では、パーゴワークスの撮影チーム。最後のひと山・富神山の登山口には山川さん、樹里さんが待っていた。樹里さんも2年前の日本山脈縦走でサポートに入ってくれた女性だ。あいかわらず笑顔が素敵だった。お菓子と飲み物の差し入れをいただき、小さなピークを踏む。 これで、終わりと行きたいところだが、まだ一仕事残っている。山形駅まで8kmほど走って先輩と再会して夕食をとるのだ。雨に降られ、ずぶ濡れのまま居酒屋に入るのであった。

8/19 36日目 56.5km

山形駅前から、蔵王山まで一気に登る。パーゴチーム、前夜の先輩が伴走、サポート。道中で北陸の友人に再会、その後、熊本から東北に帰省していたミシナさんら3人が加わり、大所帯でお釜を巡った。 みんなと別れて、南蔵王縦走路を行く。しんみりする暇もなく、夕立に見舞われる。間が悪いと思っていたら、ほどなくして雨は上がり、二重の虹が空にかかった。これは運がいいと思い直す。現金なものだ。 縦走路を下りて福島を目指すが、午後11時ごろに再び雨。本降りになる前に、峠の手前にあった集落で軒先を借りて雨宿り。いつの間にか寝ていた。

8/20 37日目 56km

雨宿りのまま寝ていたせいで、体は痛むし、全身が湿ったまま。走っては歩き、なんとか福島入り。峠を越えて最寄りのコンビニに。ようやく食事にありつけた。前日から1日が終わっていないような感覚。どこかで休むべきか考えていると、声をかけられた。ふくしまトレイルランニングクラブの高根さんだ。すでにランニングウェアで準備万端。車に乗っていた奥さんも同じくいつでも走れそう。夫婦で運転をスイッチしながら伴走していただくことに。 休憩しようなどという弱気は消えて、進むのみである。高湯温泉から一切経山へ。標高1,949mの山頂までは長かった。内臓が疲れ気味でムカムカ。山頂部にて、雨が降ったことで涼しくなり、ムカつきが治まり助かった。見る角度によって色が変わって見える五色沼。その奥に見える一切経山はピークの周辺だけ植物が生えていない。反対側の浄土平に下りて振り返ると納得する。火山ガスが噴出しており、不毛地帯になっているのだ。 前日から続く長い1日が終わろうとしている。あとは近くの吾妻小舎で疲弊した体を癒すだけだ。ところが、山小屋に着いても、管理人はおらず。中に入れない。 しばらく待っても無人。電波がなく、連絡の取りようもない。もろもろの連絡を取る必要があり、電波のある場所まで歩いていく。用を済ませて戻ると、管理人が帰ってきたところだった。すでに2時間近く過ぎていた。この間に体を休めておけたら。ハプニングが起きるから面白いのだと分かっているものの、疲労の方が勝っていた。

8/21 38日目 38.85km

山小屋の朝食はキーマカレーとサラダ、ビーツのジュースから始まる。もちろん、自分で調理したわけではない。アスリートの食事やトレーニングをサポートする影山絢子さんが長野から現地入り。2日間サポートしてもらう。味、栄養と申し分のない朝食を食べ過ぎてしまう。 2年前の日本山脈縦走でもお世話になった石井さんも車で先回りして私設エイドを出してくれる。トレイルランナーでもある影山さんが並走して安達太良山へ。沼ノ平は圧巻の絶景だった。山肌には色とりどりの地層が連なり、青空が広がる。稜線を進むごとに荒涼とした景色の見え方が変わる。その度に足を止めてしまい、なかなか進むことができなかった。 土湯峠から鬼面山、安達太良山、和尚山と抜けていく縦走ルートはそれほど長くはないが、アクセスしづらく帰りの足を確保するのが難しいからか、たどる人は少ないようだった。

8/22 39日目 61.51km

猪苗代湖の東岸に位置する安積アルプスを縦走。こちらも10km足らずのトレイルだ。短いながらもパンチの効いたアップダウンが続き、思いのほか疲れる。そもそも疲労が蓄積してきたのかもしれない。終点の御霊櫃峠のあたりからは猪苗代湖が一望できる。素晴らしいロケーション。山中ではガスが出て、あまり眺望もなかったがこれで帳消しだ。

湖畔の南側をなぞり、布引高原まで登り調子が続く。気温は31℃ほど。暑いことは暑いが、風もあって、さほどでもない。この日も伴走は影山さん、石井さんが車でサポート。湖岸では仙台の武田さんが月山、蔵王に続き3回目の登場。トレランポールの専用グローブが壊れてしまい、新しいものを届けてくれたのだ。仕事はショップのスタッフのはずだが、この日も一緒に走る武田さん。こちらが本業なのかもしれない。

布引高原は一面がひまわり畑。背の低いひまわりの奥には巨大な風車。33基が風力を発電している。多くの観光客でにぎわっていたが、売店も自販機もない。観光地だろうから、何かしら施設や設備があると踏んでいたが、30kmほど補給できない区間だった。サポートしてもらえなかったら、かなり苦しかったはずだ。

今週のつぶやき

小さき同行者に願うこと

この週は大勢の仲間と会うことができた。その一つひとつが前に進む力になる。などと書くと、優等生的な発言として好感度が上がらないだろうか。

照れ隠しにそんなことを言ってみたが、実際のところ、元気がもらえるし、伴走してもらえばペースが上がる。その一方で、休憩時に話し込んでしまって停滞時間が長くなることも。これは自分があれこれ近況を聞いたり、話題を振っていたりした結果だ。自業自得である。

仲間と過ごす時間をとても嬉しく感じている。それは1人で走る時間の方が圧倒的に長いからだ。 もっとも、完全に単独というわけでもない。山が近くなると、ぞろぞろと小さな同行者が増えていく。夜明けとともに動き出し、陽が落ちるまで、大勢が入れ替わり立ち替わり、まとわりついてくる。

アブである。非常に鬱陶しい。朝日連峰では登山道に入る前から数匹が飛び回り、山に入ると数十匹に。噛みつかれては叩くものの、一向に減ってくれない。

気温が上がるか、強い風が吹くと消えてくれる。酷暑や荒天のメリットである。どちらかというと、今はアブやブヨの方が疎ましい。

耳元でやかましく飛び回るのも、体をかすめて遠ざかるのも、ザックと背中の境界線や乳首付近に噛みつくのも、すべて止めてほしい。数十匹のアブに加え、蚊も加わってくると、もう地団駄を踏んで暴れたくなる。

その場でジタバタしたところで、吸血生物たちが消えるわけでもなく、下山が遅れるだけである。そんなことは十分に分かっている。それでも苛立ちに身を委ねたくなる。理性が衝動をなだめている間に秋がやってこないだろうか。

日々、不毛な怒りに打ち震え、格闘しているものの、悪いことばかりではない。アブたちのおかげで立ち止まることなく、休憩を減らして進めている側面もある。少しだけ感謝しつつ、早く息絶えてくれることを切に願っている。