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ZENN × テント泊縦走 in 北アルプス表銀座(前編)
パーゴワークスのプロダクトに新たに仲間入りした「ZENN」。「日本の山の最適解」を追求し、軽量性と機能性、快適性を追求した新しいアウトドアギアシリーズです。
第一弾として登場したのは、バックパック。軽量性や背負い心地のよさ、山行スタイルに合わせたカスタマイズなど、山道具としての機能と性能を見直し「再構築」した革新的な設計が魅力です。
さらに、軽量でありながらも「山で安心して眠れる」快適性を実現したシェルターもラインナップ。軽量な自立型テント「ZENN DOME SHELTER」、荷物を最小限におさえたい山岳レースやミニマリストのための超軽量シェルター「ZENN 2 POLE SHELTER」の2アイテムが揃います。
いずれも、ターゲットとしたフィールドは日本の山。バリエーション豊かな山岳、めまぐるしく変わる天候など、あらゆる環境を想定し、実用性の高い機能を検討。もちろん行動範囲を広げ負荷を抑える軽量化にもこだわりました。
そんな「ZENNシリーズ」の真髄を体感できる場所はどこか。テクニカルなルートのあるアルプスから景色を楽しみながら歩くロングハイクまで想定して開発をしてきましたが、さまざまなシチュエーションに直面するアルプス山行こそ「ZENNシリーズ」の真髄を体感できるのはと考え、パーゴワークススタッフは北アルプスの主要ルートのひとつである表銀座へ。2泊3日のアルプス山行でZENNの実力をお伝えします。
もちろん、今回もパーゴおなじみのトラブル満載の珍道中になりました。アルプス屈指の人気ルートの大冒険、ご笑覧ください!

表銀座は、中房温泉を起点に燕岳、大天井岳を経て西岳から東鎌尾根を経由し槍ヶ岳へと登頂する縦走コース。槍ヶ岳からは槍沢を下り、上高地をゴールとすることが一般的。総歩行距離は約40km。累積獲得標高はおよそ3200m。健脚向けのコースです。
2泊3日の行程を要しますが、3000m級のアルプスの山々を眺望できる縦走路や日帰りでは到達できない奥深いトレイル歩きが魅力。
今回は松本市街のホテルに前泊し、早朝の穂高駅発のバスで中房温泉へ(2025年7月現在、道路の崩落でマイカー規制がかかっています)。燕山荘のテント場で幕営し、翌朝は大天井岳、西岳を経て殺生ヒュッテへ。最終日は早朝に槍ヶ岳に登頂し、テントを回収し上高地まで一気に下山し、バスで穂高駅まで戻るコースを設定しました。
DAY 1 表銀座の玄関口、燕岳へ
旅のはじまりは中房温泉から。以前はマイカーで登山者用の駐車場までアクセスできましたが、道路の崩落箇所前後の送迎を利用したため午前8時すぎのスタートと少し遅め。とはいえ初日は燕山荘まで(コースタイム約4時間)なので、体を順応させながらのんびり登っていくことに。
なお、パーゴクルーはPRチームの3人が参加。縦走登山から山スキーまで楽しむマガジンではお馴染みクノール(中央)、そしてトレイルランを主戦場とし100マイルレースへの出場経験もあるウメ(右)、バックパッカー出身で軽さをあまり気にしないクラシックスタイルの登山を楽しむショホコ(左)が、それぞれのスタイルで表銀座縦走をお届けします。



合戦尾根は北アルプス3大急登にも数えられるタフなルートで、燕山荘までは標高1250mアップ。しかも初日ということもありバックパックは食料満載。樹林帯は蒸し暑く、すぐに息があがります。
ちょうどいいスパンで出てくるベンチでありがたく休憩しながら標高を上げていきますが、合戦尾根の登りは本編前のアプローチのようなもの。ここでヘバるわけにはいきません。


ウメ's Voice:中継地点にある合戦小屋に着くまでに、メリノTの色がすっかり変わってしまうくらいの汗をかきながら登ってきました。そう、お目当てはスイカ!なんで山小屋で食べられるの?と疑問でしたが、道中に見かけた荷物運搬用のロープウェイで荷揚げしているよう。
そんなことを思っていると、目の前に真っ赤なスイカがやってきた! もうね、一口食べた時に思いました。ここでスイカを出そうと言った人は天才です。体中にスイカのみずみずしい果汁が広がり、一気に疲れが吹き飛びました。塩をかけるとあまじょっぱい味がもう最高。小屋を後にした後も、また食べたいなあ、と何回言ったかな(笑)。
自分はトレイルランナーなので、これまでテント込みの装備を背負うことはほとんどありませんでした。なのでパッキングもひと苦労。なんとか装備は約10kgに抑えましたが、それでもこの量の装備を担いで登るのは新鮮でした。
今回選んだZENNはしっかり体にフィットして登っている時もストレスフリー。いつもは走り去ってしまうトレイルも、ゆっくり草花を見ながら歩くのが楽しかったし、遠くの山々が見えたときはこれからどんな景色が見られるのかワクワクしました。




ショホコ's Voice:北アルプス三急登の合戦尾根。この日は蒸し暑く荷物も重かったので、ゆっくりと進みました。でも途中でZENNユーザーさん達と出会ったり、メンバーとおしゃべりしたりしてたらあっという間に燕山荘に到着。汗をかいた後のビールは言うまでもなく最高でした!
ちなみに今回はテント泊を選んだけれど、表銀座は要所に小屋もあるので安心。この縦走では使用しませんでしたが、ZENN25は小屋泊にもぴったりのサイズなので、テント泊が不安な人は小屋をつないで身軽に冒険するのもアリです!
テント設営&燕岳へ
12時すぎに燕山荘のテント場に到着。受付をすませ設営にとりかかります。使用テントはZENNシリーズに新たに加わった「ZENN DOME SHELTER」と「ZENN 2 POLE SHELTER」。
クロスフレーム型の「ZENN DOME SHELTER」は設営がしやすく悪天候に強い自立式でありながら、最小重量が895gという軽量モデル。一方、トレッキングポールを利用したコンパクトなシェルター「ZENN 2 POLE SHELTER」は、さらに軽量性を追求し重量はわずか410gを達成。記事では、実践投入したシェルターの使用感もレポートしたいと思います。




クノール's Voice:今回の旅ではこの燕岳と表銀座終点の槍ヶ岳で、テント場からのピストンによるピークハントがあった。ファーストエイド、上着、レインウェア、水分を持って往復で1時間ほど歩くことを考慮すると、僕にしてみればウェストポーチでは少し心許ない。さらに、カメラを常時胸元からウエストあたりに配置しているとカメラと荷物が干渉してしまう。撮影に集中するにはサブザックを活用したい。とはいえそれだけのためにサブザックを単体で持つのも煩わしい。
そんなちょっとした悩みを解決してくれたのがZENNの着脱式のフロントポケットだった。バックパックの背面パッドとハーネスを流用して接続することで簡易的なサブザックになる。この機能のおかげで、わずかな晴れ間も逃すことなくストレスフリーにカメラを構えることができた。




のんびり燕岳散策をしていたら急に土砂降りに。夏のアルプスは日中に気温が上がると積乱雲が発達し、午後から夕方にかけて雷雨が起こりやすいのです。慌ててシェルターに逃げ込みます。雨が落ち着いたタイミングで「NINJA TARP」を屋根代わりに設営。
「NINJA TARP」は280cm辺の軽量タープで、パーゴワークスのベストセラーアイテムのひとつ。雨が予想される天候での居住空間や調理スペースの確保に役立ちます。とくに複数人での野営では大活躍。ぜひともZENNシリーズのシェルターと組み合わせて使っていただきたいアイテムです。
そしてようやくディナータイム。初日ということもあり豊富な食材で各々が自慢の料理を披露します。



ウメ's Voice:私が今回使用したのは「ZENN 2 POLE SHELTER」でした。けっして居住空間は広くありませんが、ペットボトル程度の軽量性と狭いアルプスのテント場でもスペースを必要としないコンパクトな設営面積が魅力です。
設営がとにかく早くできて、4隅をペグダウンしてポールを差し込むだけで立ち上がるので、5分あれば余裕で中で休めるのも好きなポイントです。今回、土砂降りのなかでシェルターに滞在しましたが、浸水も風で倒壊することもなく安心して一晩を過ごせました。頭の周りはとても広いので息苦しさはなく、なんなら個人的にはこの広さが落ち着きました。
人生2回目のテント泊登山は、テント場までとっても元気に来られて一安心。朝も早かったからテントで小休憩をして、燕岳までピストンに行くぞ……と起き上がるとどうも頭が痛い。気のせいだと暗示をかけながらピークを踏みました。
しかし、カラ元気でテン場まで戻ってきてお湯を沸かし始めるも、どんどん具合が悪くなっていく。食欲がなくなってきた。ああ、高山病か。下山することばかり頭をよぎって、みんなに迷惑をかけてしまう、とずっと不安でした。
ふとカメラマンの小林さんから「塩分摂ってます?」。確かに滝汗をかいたのに摂っていないかも。塩タブレットを食べて10分くらいでみるみるうちに体調も戻ってきて、食べかけのアルファ米を完食。軽度の熱中症だったようで、復活できて本当によかったです。



クノール's Voice:今回の山行の裏テーマは、それぞれのスタイル。僕のこだわりのポイントは食。理由は2つあった。ひとつは装備。テントなどの大物を軽量なものでまとめ、バックパックには容量に余裕のあるZENN 45を採用。これにより空いたスペースに食材を多めに積むことができた。
ふたつめはリベンジ。実は昨年同じルートを歩いた時、調理をことごとく失敗してしまった。食糧が十分であっても美味しく食べられなければ回復するものも回復しない、というのが前回での学び。「同じ轍は踏まないぞ」と意気込みは十分だった。
縦走初日の夕飯は肉!というのは山岳部時代からのお約束だ。今回はちょっとだけ気合いを入れてガパオライス。パーティメンバーのリクエストで生卵を持参し目玉焼きもトッピングした。
焦げつかないかビクビクしながらの調理だったのだが、TRAILPOTの前では杞憂に終わる。スパイスの香りと、半熟の目玉焼きから発せられる香ばしい匂いに食欲がそそられる。ご飯は多めに2人前。2日目の行程は長いので、ガッツリ食べて翌日に備える。
初日は大成功。明日のぶんもとっておきを用意している。カロリー計算は度外視。明日も登って食うぞ!と翌日への気運を高めつつ眠りについた。ここまでは順調そのものだった。

アルプス縦走の楽しさは、絶景を見ながら歩くことのできるロケーションだけではありません。長い行程を考慮した食料計画や快適で安全な野営など、アウトドアスキルを発揮しつつ山のなかで過ごす時間をいかに満喫できるか。夏とはいえ標高が3000m近くなると気温は15℃ほどまで下がります。万全の装備と計画、技術を備えることが欠かせません。
明日は槍ヶ岳を目指し、長い縦走路を進む核心とも言える日。薄暗くなったころ、それぞれのシェルターに戻り、寝袋に潜り込んだのでした。
DAY 2 大絶景の稜線をゆく!
出発は午前3時。コースタイム9時間オーバーの槍ヶ岳までの長い行程に加え、午後の雷雨に備えた早出となりました。雨は収まることなく夜どおし降りつづきましたが、出発するころには収まり一安心。ヘッドライトを点け、まずは大天井岳を目指します。



うっすらと見える縦走路。燕岳から大天井岳までの登山道は比較的アップダウンが少なく気持ちのよい稜線がつづきます。槍ヶ岳まで行くのは難しいと感じる方は大天井岳までの往復や、パノラマ銀座と呼ばれる、常念岳、蝶ヶ岳へとつづく縦走路もオススメ。
天気がよければ右手に槍ヶ岳や裏銀座の山々が連なりますがガスが濃く、黙々と大天井岳を目指します。
ショホコ's Voice:出発ギリギリまで小雨が降り、天気予報は昼過ぎから雨……。どこまで行けるかチームで相談して「まずは大天井まで行ってみよう」と、雨が止んだ瞬間さっとシェルターを撤収して出発。
ここでシングルウォールの利点を発見。ZENN シェルターはシングルウォールなので、結露を手拭いでふくだけで水気が取れて、パッキングも早い。私がいつも使っているダブルウォールは、フライシートが水分を含んでしまって重たいので、「シングルウォールは軽いし撤収が楽でいい!」と実感しました。(シングルウォールも結露で重たくはなるので、テントはスタッフサックの口を空けてZENNのサイドポケットに入れ、乾かしながら行動しました)。
そして、どうか天気よ持ってくれ!と、願う気持ちで出発。でもずっとガスでこれから行く道すら見えない。個人的に山は日の出より前の時間が一番好きだから、雲が切れないかなぁと、ずっと空の様子が気になっていました。



ウメ's Voice:夜明け前から歩き始め、ヘッドライトで前を照らしながら進む。100マイルレースなどで夜を越える経験はしているので、そんなに苦難はない。なんならしっかり寝ている分、元気に進めているのが楽しい。10kg近くあるZENNも背負い心地は全く問題なく快適。ただ、見える景色の規模がデカすぎて何度か心を折られかけた。
時々雲が切れて、この先に待ち受ける山々、そしてラスボス槍ヶ岳が見える。なんて雄大な景色なんだろう、と思う一方で、「これ見えている稜線を全部歩くんですよね?」とちょっぴりうんざりする。トレランと違って、道のスケールがでっかいのだ。次のピークが見えるたびにコースタイムをチェックして、「本当にそこまで15分で行ける?」と何度聞いたかなあ。



クノール's Voice:実は僕が山の時間帯で最も好きなのは夜明け。ヘッドランプを点けてスタートし、そろそろ消しても良いかといった塩梅の光加減。頼むから晴れてくれよと祈りつつ暗闇を進んだ。
待ちかねた朝は息を呑むほどの美しさ。群青から紫、橙色へと移り変わっていく遠くの稜線を眺めていた。今回は曇りがちの景色で、これから歩く道が雲の中に入ったり出てきたりしているのも幻想的。思わずペースを落としてシャッターを切るのに夢中になってしまった。

清々しい朝。槍ヶ岳を望む絶景を味わいながら進んでいきます。これこそが縦走登山の楽しさであり、表銀座コースの魅力。昨日は夕方からずっと雨に降られていたこともありスカッと抜けた空に嬉しくなります。と同時に、あそこまで歩いていくのか!という若干の絶望感もないまぜになった複雑な気持ちが沸いてきます。ともあれまだまだ絶景はつづきそう。足取りは心なしか軽くなるような気がします。
大天井岳を目指して
本日ひとつめのピークは大天井岳。夏山らしい青空と緑に覆われたどっしりとした山容が出迎えてくれました。


ショホコ's Voice:大天井までの道は長かった!じりじりと照りつける太陽と急な登りに体力が削られていきました。それだけに登頂した時の達成感は格別!北アルプス、立山の景色に息を飲みました。
雲の様子から「まだ雨雲は大丈夫そう」と、槍ヶ岳まで進むことに。遠くに見える雨雲と続く急峻な道のりに、若干の不安を抱えながら大天井を後にしました。
それにしても、夏山は天気の変化がめまぐるしい……。天気予報に頼り切るのではなく、現場の状況から判断しないといけません。今回は幸運にも風が弱かったので、雨に振られても低体温症になるリスクは少なかったです。でも「もしも、強風だったら」と思うと、やはり雨や風などのリスクに備える装備は必須。軽量化をするとはいえ、ここは削れません。そして事前にエスケープルートを準備したり、エスケープの判断をする基準を持っていることも大切です。


クノール's Voice:近くに見えるピークほど遠いものはない。というのが大天井岳で得た教訓。もう目の前のはずなのに、日差しとつづらに続く登りにやられてペースは右肩下がり。次第にメンタルもマイナスに寄ってきた頃、ようやく頂上に辿り着いた。
そうすると不思議なもので、山頂からの絶景を目の当たりにすると、無限にも思えた登りのつらさもさっぱり忘れ、思わず笑顔が溢れる。こんなことを何度でも繰り返せるのが縦走の醍醐味ではないだろうか。
とはいえ大天井岳ピーク近くの山荘についたのが朝の6:30ごろ。普段であれば自宅で二度寝をキメているはず。そんな時間に山で絶景を楽しんでいられる贅沢を噛み締めた。そしてこの日の行程はまだ8時間も残っている。この長い時間を山にどっぷりで過ごせるのも冒険感があって素晴らしい。



ウメ's Voice:暑い。やっぱり今日も汗が止まらない。初日の体調不良の反省から、塩タブレットや、ゆっくり吸収されるナッツ類を食べながら進むことにした。ZENN(善)は急げだ。学んだ知識は使っていかなければ。
大天井岳を越え、びっくり平まできてもまだ今日の行程はまだ半分。ペースによっては今日のテント場、殺生ヒュッテへの到着前に雨に降られるかもしれない、という微妙な天気模様だったためにダラダラ休むことも許されない。このセクションは樹林帯のトラバース道がずっと続いたので、足元に気を遣う。一方で、視線を上げればどこまでも続くアルプスの絶景が本当に気持ちいい!トレランではなかなかこんな景色が見られない。縦走のロマンを早くも感じながら進み続けた。


ショホコ's Voice:やってしまった!小林カメラマンに「お尻に穴が開いてるよ(笑)」と言われて気付くも後の祭り。休憩で岩場に座った時に親指サイズの穴が開いてしまいました……しかも下ろしたて!涙 マイファーストエイドに忍ばせていたテーピングで応急処置をして穴は大きくならなかったけど、裁縫道具も入れておけばよかったな。テープを貼らせてしまったクノール、ごめん!
そして、ここからは岩場のある東鎌尾根が待っている。楽しみ半分、穴が大きくなることへの心配半分。長い距離とアップダウン、栄養と水分の補給、不安定な足元、そして天気など考えなければいけないことがたくさんあるのに、悩みを増やさないで! 頼むからこれ以上、穴よ広がらないで……。
大天井岳から大きく下り、トラバース道を西岳に向かって歩いていきます。大天井岳から先に待ち受ける東鎌尾根はヘルメット推奨ルートであり距離も長いため、ここから先へと向かう登山者はグッと少なくなります。人気がなくなり、心なしか山も奥深くなっているよう。
後編は表銀座縦走コースの最難関箇所である東鎌尾根、そして槍ヶ岳の登頂のストーリーをお届けします。お楽しみに!