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TJAR2022参戦レポート(大畑匡孝)
2022.09.02 REPORT RUN

TJAR2022参戦レポート(大畑匡孝)

「南アルプスに入ってからが、勝負だと思っていました。自分の管轄なので、地形はすべて頭に入っているし、どこでビバークできて、どこに水場があるか、どんな天気になりやすいか、すべて把握しています。それに地元や職場の仲間も待ってくれていますから。」

日本一過酷と言われるTJARに挑戦し、見事に9位で完走した大畑匡孝選手がレースレポートを寄せてくれました。大畑選手は日頃からRUSHを使っている事もあり、我々パーゴワークスも全力で応援しているナイスガイ。今回はRUSHの特注モデルを使っての参戦となりました。

小学校から大学まで水泳部で活躍し、就職してからトライアスロンに没頭。26歳でトレイルランニングを始めて今年で11年。TJARのレジェンドである望月将悟さんの背中を追って地元静岡の山岳救助隊に入隊、南アルプスを中心とした山域で活動し、休日も山でのトレーニングを欠かさず、TJARに向けて心身を鍛える毎日を過ごす37歳。「変態だね!」言われると喜ぶ。

戦歴
2018年 OSJ Koumi 100マイル 7位
2019年 石井マウンテンマラソン 混合 優勝
2020年 OMM野沢温泉 スコア 総合優勝
2021年 TJAR2020(2日目に台風で中止)
2021年 OMM本栖湖 スコア 総合優勝

トランスジャパンアルプスレース ”TJAR” とは

トランスジャパンアルプスレース(TJAR)は、日本海から太平洋まで、北、中央、南という3つの日本アルプスを繋げながら、8日間以内にゴールする日本一過酷なレースです。距離は415km、標高差は27000mで、エイドやサポートを一切受けずに自分の力だけで走破する必要があります。今回は、厳しい書類選考と選考会を勝ち抜いた30名、土井選手(UTMF優勝者)や、望月選手(TJAR4連覇、引退宣言からの復帰)などが参加し、開催前から盛り上がりをみせていました。

いよいよスタート

スタートの魚沼海岸で集合写真。選手はスタートで日本海の水に触って、無事にゴールで太平洋に触れるように祈願します。

レースは富山県魚津市の早月川河口からスタート、深夜0時にスタートするため前日夕方の受付ギリギリまで魚津市内のホテルで睡眠を取りました。会場に来ると30人の選手と関係者の熱気と盛り上がりで異様な雰囲気です。スタート前に恒例の日本海へタッチし、これから向かう太平洋へと気持ちを高めます。いよいよこの時が来た!参加選手はみんな途方もない努力をしてTJARに備えてきた。ライバルでもあり仲間でもある。絶対に全員でゴールしたい。そんな気持ちでスタートを切る。

1日目 日本海から立山へ

スタートから夜通し走った翌朝の7時半に1座目の剱岳(標高2,999 m)を通過します。ここまで総じて天候は良くて涼しかったため、先頭集団はハイペースに進んでいきますが、まだまだレースは序盤。あくまで自分のペースを大事にして1日目は薬師峠キャンプ場でストックシェルターを使って3時間半ほど仮眠します。

2日目 北アルプスを縦走し中央アルプスへ

薬師から黒部五郎岳、三俣、槍ヶ岳と縦走し、上高地のCPへ降りて北アルプスのセクションを終えます。思えば前回大会では双六小屋で終了を言い渡されて、新穂高温泉へ歩いて下ったんだよな...。あのときは本当に悔しかった。

そしてここから中央アルプスの入口まで67kmのロード走!衣食住の全てを背負って走るこのツラいロード区間もTJARの特徴の一つ。予定通りに2日間で8000kcalの行動食を消費し続けながら、身体のダメージを最小限に抑えて走り続け、木曽駒森林公園に到着。東屋の下でシュラフカバーを使って4時間の仮眠を取りました。この時点で順位は5位。

3日目 視界不良の中央アルプス

中央アルプスはガッスガスで視界が効かない状況。岩場ではルートファインディングに苦戦しますが、近いペースの保田さんとタッグを組んで助け合いました。山を降りた駒ヶ根では、よほど腹が減っていたのかうな丼と牛丼と豚汁(!)を補給します。まだまだ胃腸も元気で4時間仮眠し、起きたらまたまた牛丼を補給します(笑)よし、次はホームグランド。南アルプスだ!

いつもの練習仲間なっちゃん(山内菜摘)が途中応援にきてくれて、笑顔になります。

4日目 大荒れの南アルプス

南アルプス北端である仙丈ヶ岳(3033m)から南アルプスに入山。レースもすでに4日目となり疲労も溜まってきますが、登山道や山小屋でたくさんの応援に勇気づけられ、当初の目標を上回るハイペースで進みます。この日は百閒洞幕営地で4時間半の睡眠を取る予定でしたが、豪雨の中30分の仮眠で切り上げ、兎岳で幻聴と闘いながらついに南アルプス最南端の3000m峰、聖岳(3013m)をクリアします。

5日目 南アルプスからゴールへ

そして悪天候のなか無事に南アルプスから下山。さすがにホッとして2時間の仮眠をとる。あとはゴールまで寝ずに走るのみ! ここからラスト85kmのロード区間。途中には難関の富士見峠の峠越えもある。5日間縦走したあとにザックを背負ったままで走る、究極のウルトラマラソンの始まりです(苦笑)

ずっと雨の中で動き続けて、足の裏はマメだらけ。

台風の影響をもろに受けてロード区間は豪雨に。足の裏はふやけて痛み出し、濡れた荷物は重くなり、疲労と痛みに苦しみながら進む。ついに脚は棒になり、メンタルも相当やられていた。

しずはた出張所を通過。

ゴールまで12キロ。コース途中にあるしずはた出張所は、2年前までいた自分の職場。深夜にも関わらず、職場の仲間たちがシャッターを上げて待っていてくれていた!みんな本当にありがとう!

そして最後は皆さんの応援の力で前に進み、ついに大浜海岸にゴール!念願のTJARを完走し、太平洋の水に触れることができました!!台風にも関わらずゴールで応援して待っていてくれた仲間を見て涙が溢れました。ありがとう!

6日間と5時間24分の戦いを終え、9位でゴール!

見事に悲願のTJAR完走を果たした大畑選手。今回の挑戦のためにどんな努力をしてきたのでしょうか?また特注のRUSHはどうだったのでしょうか?そのあたりを伺いました。

トレーニングについて

TJARを目指すようになってからは、山に入る時はなるべくTJARと同じ装備で走り、人から勧められたギアはとにかくすべて試しました。苦手だったロードランを克服するためにトレーナーをつけて、自己流だった走り方やストレッチを改善。TJARの参加条件であるマラソンのサブスリーを達成しました。読図力の強化には、オリエンテーリングの大会に優勝できるまで何度も出場しました。

また食生活も見直して、大好きだった菓子パンや炭酸ジュース等は禁止して、自宅で育てた玄米や野菜中心の無添加素材にこだわった食事に変えました。ほかにもいろいろありますが、これ以上は企業秘密です(笑)

ザック、装備について

私がザックに重視する性能は、1 フィッティング、2 収納、3 軽量化です。

2020年にはRUSH30をパーゴワークスの斎藤さんに改造してもらい、なんと230gも軽量化したモデルで出場しました。今回は私のリクエストをもとに作った特別モデルを背負わせてもらいました。

「大畑選手のTJARに対する熱量にデザイナー魂を揺さぶられたんです。速攻でスケッチを描きましたね。とにかく大畑さんのために最高のRUSHを作ろう!そんな気持ちで試作とテストを繰り返しました。制作過程はまさにランナーとデザイナーの勝負でした。理想の物作りができたぜ!って感じです。大畑選手もRUSHも故障なく無事に完走してくれて心底ホッとしています」(デザイナー 斎藤)

1. フィッティング

肩の角度や長さ、クッションの位置をミリ単位で合わせてもらうことで、毎日20時間6日間背負い続けても、最後まで擦れたり痛くなるようなことはありませんでした。その技術や経験に驚かされました。

毎回フィールドテストの感想や修正点を詳しく知らせてくれました。

2. 収納力とアクセス性

過酷な状況でも補給し続けるため、背負ったまま何も考えずに各ポケットへアクセスできることが重要です。RUSHの特徴でもあるフラットで伸びのある生地でできたベスト型のポケットは、500mlボトル×4、大量の行動食、保護クリーム、日焼け止め、地図、スマホ等、全て背負ったままアクセスでき、歩きながらストックを収納することもできます。

3. 軽量化

私が一番こだわった部分で、1gでも軽くして欲しいと斎藤さんにリクエストしました。不要な装備は全て撤去し各ベルトも最低限まで切り詰め、背面クッションはスリーピングパッドの兼用など、フィッティングを一切犠牲にすることなく420gまで軽量化してもらいました。その結果、スタート時の装備総重量(水1Lと食料込み)は5.4kgまで絞れました。

特注RUSHの感想

TJARでは、ザックから受けるほんの少しの擦れや違和感がやがて大きなダメージとなり、致命傷にもなりかねません。このザックはベルトを全て緩めて身体をリラックスした状態でも揺れずに走ることができる。つまりフィット感とバランスが極めて高いレベルにありました。各ポケットも使いやすくストレスが少ないのが印象的です。特注品とはいえ、紛れもなくRUSHの良さが詰まっています。これからも色んなチャレンジの相棒になってくれると思います。

これが大畑選手の装備一覧。山岳救助隊の彼だからこそ可能な超軽量装備といえます。

これからTJARを目指す人へ

TJARは出場するにも非常にハードルの高いレースです。書類選考、選考会、抽選会を勝ち抜く必要があります。僕はTJARのゴールを想ってから6年かけて夢を叶えましたが、中には10年以上かかった人も何名かいました。
絶対に出場するんだという強い意志を持って、どれだけ準備してきたかが必ず結果として表れます。
TJARを見据えた練習、レース、装備、縦走、どんなことでもTJARに繋がることは一つずつチャレンジしてみて欲しいと思います。
夢は見るものではなく、叶えるもの!