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新人スタッフによる「信越五岳トレイルランニングレース」110km出走レポート
2023.09.27 REPORT RUN

新人スタッフによる「信越五岳トレイルランニングレース」110km出走レポート

「黒姫でリタイアします」

国内の人気トレランレースのひとつである「信越五岳トレイルランニングレース」。
その110kmの出走権を手に入れたけど、レースは黒姫エイド(49km)でリタイアするつもりだった。

というのも今年の夏に登山レースを走り過ぎて膝を痛めてしまったからだ。7月に富士登山競走、その翌週に富士登山駅伝を走り、2週連続で富士山を走った。さらに、立山登山マラニック※にも出場したが、このレースはリタイア。頑張り過ぎたのかもしれない。

また、走ること以外にも、9月にパーゴワークスに転職して新生活が始まり、慌ただしく時間が過ぎた。そんな痛みと環境の変化のせいで、大会直近の最長走行距離はたったの2km。だから「黒姫でリタイアします」と、みんなに宣言していた。せっかくゲットした信越五岳の出走権だったから黒姫までだけでも大会の雰囲気を味わいたいと思って、走ることだけは決めていた。

そんな気持ちでスタート前日、選手受付に行くと、大会恒例となっているナンバーカードを持って写真撮影をするブースに選手が行列していた。みんな、この日を待ち望んでいたような明るい笑顔で、出場することが誇らしげだった。仲間同士の撮影もうらやましい。自分は「途中でやめるから」とどこか浮かない気持ちのまま、写真を撮ってもらった。

信越五岳トレイルランニングレースとは?

信越エリアにある5つの山(斑尾山、妙高山、黒姫山、戸隠山、飯縄山)を繋いだトレイルレースで、今年が13回目の開催。レース中には選手が途中で荷物を受け取れるドロップバッグ、家族や友人が補給などのサポートをできるポイントが設けられている。さらに、プロデューサーの石川弘樹氏がこれまでに走ったアメリカのトレランレースを真似て、国内でも珍しい、レース後半に伴走をつけられる「ペーサー制度」、100マイル完走者に「バックル」が贈呈されることも人気の理由だ。

「初めての信越五岳の旅が始まった」

110kmの旅がスタート。たくさんの応援がうれしい。

9月17日(日)朝5時30分、斑尾高原レストランハイジ前をスタート。会場一帯はガスがかかって幻想的な雰囲気。「いってらっしゃい」とたくさんの人に見送られるこの瞬間がたまらなく好きだ。「いってきます」と何度も声に出して手を振る。ススキがゆれるゲレンデを回って、110kmの長い旅が始まった。

だんだんと日が昇って空が明るくなり、気温が高くなった。順調に斑尾山を越えてバンフへ、そして袴岳もクリアして熊坂エイドまでやってきた。ボランティアにホースで頭に水をかけてもらうと、ひんやりして気持ちよかった。元気も回復。これなら黒姫までは行けそうだ、と前に進むことにした。

「暑さにうんざり、自分にガッカリ」

約7kmダラダラと続く関川の一本道。
日陰がなく、体力がジリジリと削られた。

熊坂エイドを出てまもなく、日陰のない関川沿いの道がダラダラと続いた。エイドで何度も水を被ったのに、あっという間にTシャツが乾く。暑さにうんざりして、ずっと歩いた。黒姫でやめるつもりだったから「あと10kmだけ頑張ろう」と眠くなってきた自分の頬を叩いた。そうこうしているうちに黒姫エイドに着くと、リタイア受付でスタッフに申し出ている人を見かけた。自分も辞める予定だったけれど、体はまだ元気だし、制限時間までは余裕もある。「直近レースから2連続リタイアはやっぱり嫌だ。ここで終わりたくない」と思い、エイドを出て再スタートした。

「残り時間、13時間」。

黒姫エイドを出ると、登り坂の左手にコスモス畑が広がる。
リフトに乗るお客さんがうらやましかった。

黒姫エイドを出た後は、コスモス畑を横目にゲレンデを登る。つい勢いでエイドを出発してしまったが、行けるところまで行くぞと自分をプッシュした。そのまま、背の高い木に囲まれたトレイルを進んでいると、どこかから「サァーー」と音が近づいてきて、いきなり雷雨になった。ザァーーゴロゴロ。さっきまでは酷暑、続いて雷雨。「なんて天気だ」と思いながらレインジャケットを着込む。ロングレースは甘いものじゃないと改めて思い知らされた。

大雨の中、笹ヶ峰エイドに着いた。「あぁ、ここまで来れた」とホッとした。雨に濡れないところに行きたかったが、建物の屋根の下には人が密集していた。「大丈夫?」と選手を気遣うペーサーがいたり、疲れ切って呆然とパイプ椅子に座っている選手もいれば、「行くぞ!」と飛び出していく選手&ペーサーもいた。土砂降りが少しでも収まるタイミングを見計らって、みんな空を見上げて待っていた。

ここで事前に預けたドロップバッグを受け取れるが、私のバッグの中には補給食のジェルが2個とTシャツ、タオルのみ。濡れた靴下を換えたかったが、ここまで来る予定がなかったから、入っていない。準備した過去の自分にガッカリした。長く止まると身体と気持ちが冷えて進めなくなると思って、ドロップバッグを再び預けて、サングラスをヘッドライトと交換してからすぐにエイドを出た。

「残り時間、10時間30分」。

笹ヶ峰エイドを出た後、乙見湖の橋を渡る。
雨が降ったり止んだりを繰り返した。

ゆるやかな下りのトレイルになると、泥の水溜りが連なって、小さな川ができていた。最初はシューズが濡れるのを気持ち悪がって水溜りを避けていたが、途中から諦めて泥遊びに徹した。シューズがまるまる浸かる深さの水溜りにもどんどん足を突っ込むうちに「シューズの中がひんやりするのが気持ちいい」と変なテンションになってきた。それでも頭の中は冷静で、ゴールするために現在のスピードと制限時間をずっと計算していた。

黒姫エイドで食べたずんだ餅。ちょうどいい甘さが気に入った。

笹ヶ峰を出てからはどんどんシューズが泥まみれになった。

戸隠スキー場エイドに入った。刻々と時間が過ぎていくが、まだ大丈夫なはず。最後まで行こうと心に決め、温かい蕎麦と雑炊を食べ、体力をチャージして出発した。コースで最高標高の瑪瑙(めのう)山は、夜ということもあって終わりがなかなか見えず、無心で歩き続けた。やっと山頂を踏んで標高図を確認すると、もう高い山はない。「早く終わりたい」と思うと、下りは少しペースが上がった。

「残り時間、4時間40分」。

下山して最後のエイド、飯綱林道に辿り着くと、ボランティアから「制限時間まで残り2時間。キロ7分で行けば間に合うよ!」と言われた。ガーン。手元のGPSウォッチはもう100kmをすでに超えて残り数キロと思いこんでいただけに落ち込む。エイドに着く選手はみんな急ぎ足で出て行く。この状態でキロ7分ペースで走るのは辛いけど、行くしかない。間に合うといいのだが・・・。

「まずい、間に合わない!」

最後のエイドからの約13kmの林道が一番苦しんだ。走っても道を曲がっても景色が変わらない。雨は止んでいるが、長時間濡れてふやけた足の裏が痛む。歩いたり走ったりして進んではいるが、完走できるのか、まだ自信が持てなかった。ふと手元のGPSウォッチを見ると、電池切れ。すると、遠くから「残り4分」と拡声器の声が聞こえた。まずい。間に合わないかもしれない。ペースを上げた。

まっすぐ伸びる道路の先にたくさんのライトが見えた。あれがゴールか!「急いで!」「間に合うよ」と声が聞こえる。ゴールできるとやっと確信し、膝の痛みのことは忘れて思い切り走った。「ただいま!」と叫びながら観客とハイタッチをかわし、ゴールテープに突っ込んだ。
タイムは21時間59分36秒。なんと、制限時間の24秒前だった。やった!ゴールして間もなく、カウントダウンとともに大会終了が告げられた。「まさか完走できるなんて」。長かった旅が終わった。

Photo by Nobuhiro Shimoyama

出会ったRUSHランナーたち

RUSHランナーに元気をもらいました!

このレースにはびっくりするほど多くのRUSHランナーが出場していた。早い人から遅い人までRUSHを使ってくれていることが嬉しかった。そしてみんなそれぞれの気持ちをRUSHに詰めて走っている。コース上で私を抜いていくランナーに「どんどん行けー」と無言のエールを送りながら、自分も頑張ろう!とポジティブな力をもらった。本当に皆さんお疲れ様でした!

この大会は、信越エリアの大自然を走れるコース設定や、ボランティアスタッフの方々の懸命な応援・サポート、そして、それら全てが組み合わさった大会の雰囲気が本当に素敵なレースだった。また走りたいし、次に出るときは自信を持った状態で挑みたい。みなさんもぜひ信越五岳にチャレンジしてみてください!

<新人スタッフプロフィール>

梅田裕平
富山県出身の29歳。今年4月にFUJIで初めて100マイルを完走。7月には富士登山競走も完走している。雑誌の編集者から転身して9月からパーゴに入社した。好きな食べ物はカレーとカヌレ。

(参考)装備品リスト

※立山登山マラニック・・・海抜0mの砂浜から立山山頂3003mまで走るレース。距離は65km。