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2021.12.17

開発秘話 vol.3 タープ編

一枚布に隠された、常識を覆す発明

パーゴワークスのキャンプカテゴリーを支えるシェルター系のアイテム。その起点となったのが、ロングセラーモデルのひとつ「ニンジャタープ」だ。この「ニンジャタープ」の登場により、パーゴワークスにとってのキャンプ・野営スタイルの提案が可能になった。

そんな「ニンジャタープ」だが、やはり製品化までの道のりは決して楽なものではなかった。「一枚の布」でありながら、あらゆる可能性、アウトドアの自由を体現するプロダクトはいかに誕生したのか。掘り下げていこう。

今回は近くの公園でタープを張りながら撮影。

ーついに第3回にしてシェルターを取り上げたいと思います。今でこそ「ニンジャシェルター」や「ニンジャテント」がありますが、やはり「ニンジャタープ」がシェルターカテゴリーへの参入へと繋がった重要なプロダクトだと感じています。モノそのものの開発の前に、なぜタープを作ろうと思ったのか、そこからお話いただけますか?

「ニンジャタープ」を発売したのは2015年。2010年代というのは、SNSが一気に普及して一般化した年で、山の遊びでもそういったSNSの影響が強く出はじめた時期だった。フェイスブックやインスタグラムの友達やグループで、「明日行くけど、どう?」みたいな感じで、見知らぬ人と集まって山に行くことができる時代になった。気楽に、インスタントに遊べるようになった。

発売当時の展示会資料。「NINJA SHEET」という名前の予定だった。

それまでは、「今年の夏はどこそこ行こうよ」「7月の後半空けといてよ」「そのために靴買っとかないとな」「鍋持ってない?」というように、道具を貸し借りしたり、共同装備でその日にちゃんと持って行ったりと、遊びに行くまでに予定を合わせて、ちゃんとした参考計画を立てて、綿密に準備をして臨むみたいな文化だったように思う。今でももちろん遊びの内容にもよるけど、そういう途中段階をすっ飛ばしていきなり、「明日どこそこの山行こうよ」というのが可能になった。 

で、そういうフットワークが軽いアウトドアの遊びが可能になったのは、道具の軽量化、個人装備化が大きいと思っていて。ちょうど2010年代にULの流れというのがドカンと入ってきて、ベースウェイトという考え方も広まって、個人装備をそれぞれがしっかり認識できるようになった。それまでは漠然と、山小屋だったら35L、縦走だったら60Lみたいな、ざっくりとした道具のボリューム感でやってたと思うんだよね。

共同装備が個人装備になり、個人でアウトドアを完結できるようになったから、誰が一緒になろうが問題なく山に行けるようになった。そんな気軽さもありながら、「何か物足りない」という思いもあった。実際山に行っても、みんなテントの中でエスビットでお湯沸かして、おやすみなさ〜いみたいな。

現地集合、現地解散だし、山行ってテント張るけど、それぞれ好きなところに張って、引きこもる。周りには仲間いるのに、テントのなかでSNSをやって他の人と繋がっていたりとか。ご飯もそれぞれだし、天気よかったらまだいいけど、天気が悪かったら完全に「ただの孤立した人たちの集団」。なんかつまんねえなと。

—たしかに雑誌でも「ソロテント」みたいなキーワードが頻出していましたし、ULをきっかけに個人装備を見直したという人も多いと思います。それまでは一緒に山に行くというと効率的ということもあり共同装備の文化がありました。

そうそう。ソロ化するなかで、やっぱりみんなで集う場というのを作りたいと感じるようになったたんだよね。そこで着目したのがタープ。よく「宴会の屋根」として持って行っていたんだけど、個人装備ともっとうまく組み合わせられないか考えるようになった。

それまではタープっていうと、ファミリーキャンプで広げるいわゆるキャンプ道具的なものだったり、沢ヤが持っていくようなマニアックなものだった。登山目線ではタープはあまり候補にあがらないと思うんだけど。

ただ、その頃ULのブランドから小型のタープは出はじめていて、惹かれたというのもある。プロダクトとしてシンプル。ただの一枚の布なのに、自分の経験や技術、アイデア次第でいろんな使い方ができるクリエイティブな面もある。それがデザインの対象として魅力的だなと。ということで、開発をはじめることに。

—キーワードとしては、シーンを選ばず、個人装備だけどみんなが集まれる場にもなるもの、ということですかね。

そうそう。でも、タープそのもののデザインや機能の前に、それぞれのタープを連結することで、空間が広げられたらいいなという漠然としたアイデアがあった。みんなで持ち寄れば人数分の空間ができるし、ひとりドタキャンされても困らない。個人装備でありながら、人数に応じてスペースが作れる。さっき話していたそれぞれが一緒なのにバラバラな感じもなくなる。だから、「連結したい」というのが、最初の発想かな。

プロトタイプで連結をテスト。

—テーマが見えたところで、具体的にどうやって開発していったのでしょうか。

最初の頃に考えたのは六角形。キャンプ用のタープも六角形のものが多いけど、タープどうしを繋ぐと、サッカーボールみたいに連結できる点に着目した。ちょっと建築的な考え方かもしれない。ジッパーをつけて連結できるようにとか考えた。でも、実物大でテストしてみたらすごく使いにくかった。とにかく、張るのに頭を使う(笑)。

連結するためにジッパーをつけたり、バックルつけたりすると結果的に重くなるし、連結する箇所が何パターンできれば、それはそれで楽しんだけど、とにかくとても張りにくかった。これでは誰も持って行かないし、自分でも持っていかないと思った。

「ニンジャタープ」は先に4隅をペグダウンしてから、ポールを差し込むことで簡単に設営できる。

そこで、とにかく張りやすさをクリアしてから連結を考えようと。一番シンプルな形状は四角形なんだけど、六角形ならワンポールテントのような張り方ができる。四隅をペルダウンしてポールを立てればいい。

一般的なタープの設営手順は、まずタープ広げて、両端のポールが立つ位置に合わせて2箇所ずつペグを打ち、ガイラインを張ってポールを立てる。立てながらガイラインを調整して、テンションかけて完成。これがオーソドックスな張り方かな。でもこの流れを一人でやるのは大変。

そこで参考にしたのが、ワンポールテントだった。最初に四角をペグダウンして、センターポールを立てて完成する設営の早さ、手軽さをなんとか取り入れられないか考えた。で、辿り着いたのが手裏剣型だった。手裏剣の場合も最初に四隅をペグダウンして、ポールを立ててあげれば、あとはテンションかけるだけで立ち上がる。

内側にガイポイントを設けることで張りやすさを実現。

特徴として、手裏剣型はテンションが内側にかかるので、ポールの外側のガイラインが不要になる。これはスクエア型では不可能。なぜなら四隅をペグダウンして、これ持ち上がったとしてもポールは内側に倒れてしまうので、外側に引っ張る外ラインが必要になる。開発の初期段階で、連結を優先して考えていた形は六角形がベースだったので、どうしても張りにくかったけど、これなら張りやすさは解決できた。

一般的なタープの形状は、スクエアか六角形。だから「ニンジャタープ」の手裏剣型というのは、思いついたときに「俺天才〜!」と思ったよね(笑)。世の中のタープ全部この形になればいいのにと思ったくらい。

  

—本当に発明ですよね。これまでのタープの形状ではできなかった構造だと思います。でも、どのように手裏剣型に至ったのですか?

手を動かすというより、頭の中で描いているうちにたどり着いた感じ。地面があって、天井があって、ポールを2本立てる。このポールが内側に倒れないようにするためには、外に向かう力が必要で、普通はここをガイラインで対応するんだけど、手裏剣型にすれば…というのを脳内でイメージしていた。

これはいけそうだ!というところで、原寸大の試作品を作って河原で張ってみたんだけど、そこでまた発見があった。なんとポールの位置を自由に移動できた。内側だったらまずどこでもOK。四隅がしっかり抑えられていれば、真ん中でも、斜めでもどこでも成り立つ。で、ポールをつけたら使いやすそうなところにループを設けて、いろんな張り方を検証してみた。どれでもあっさりできちゃって、張りやすさという問題点はあっさり解決してしまった。

次のステップで、タープとしてはかなり斬新な機能であるドローコードに取り掛かる。形状が定まったタイミングで、辺を絞るといろいろできると気づく。もともとは弛みやすいのをなんとかしたくて、紐で絞るという方法を考えていたのだけど、テンションをかけることで立体的になる。

タープって開放的なのはいいんだけど、閉鎖的にしたい時もあるじゃん。日差しや雨、あるいは泊まろうとしたらやっぱり閉じていた方が使いやすい。そういうときにドローコード一発で絞れるなら、いろんなことができるんじゃないのかなと。

—当初のアイデアである「連結」はどのように解決したのでしょうか?

これもいろんな方法を試した。バックル、ベルクロ、ジッパー、紐、ハトメ、ボタンなどなど、全部検証してみた。それで最終的に残ったのがトグルだった。

トグルって本当に原始的な仕組みなんだよね。輪っかにパーツを引っ掛けるだけのシンプルな方法で、エスキモーが使っていたくらい、数ある連結方法のなかで最も原始的。連結したときに隙間が空いてしまうという問題はあるんだけど、そもそもタープだし「雨風入るでしょ、逆に風抜けていいじゃない?」みたいな感じでいいことにした。下で焚き火しても煙抜けるしいいんじゃない?って(笑)。

もちろん、「ジッパーでぴっちりした方がいいじゃん」とか、「ベルクロで合わせればいいじゃん」という声もあるかもだけど、俺の出した結論は、トグルで連結するという方法だった。

トグルの間隔は47cmになっていて、平面的に張るなら無限に連結できる。ただ現実的には2枚くらいが使いやすいと思う。もちろん4枚でやったこともあるけどかなり広くなる。製品自体も個人装備サイズにできたので、2人が持ち寄れば広い空間を作れるという当初の目的は達成できた。

—「NINJA(ニンジャ)」というネーミングはなかなかインパクトがありますが、名付けの経緯はどのようなものがあったのでしょう。

パーゴワークスのマークが手裏剣だし、タープの形状も手裏剣っぽかったから、「手裏剣タープ」というのが当初の案。でも、アメリカでも売りたいと思っていたので、もっとキャッチーなワードである「ニンジャ」を採用。

名前だけニンジャにしても面白くないから、Off The Grid(アウトドア展示会でパーゴワークスも発起人となった)では忍者の格好をして張り方の実演をした。来た人はきっと覚えていると思うけど、人だかりができるほど盛り上がった。この忍者ショーはメリカでもやったんだけど、やっぱり好評だった。インパクトはあったと思う(笑)。

張りやすくて、いろんな使い方ができる「ニンジャタープ」だけど、やっぱり一枚の布なんだよね。だからこその広がりをいかに伝えるか、面白いと思ってもらえるかがカギだった。

お客さんもお店の人も、パーゴワークス=バッグブランドというイメージがあったと思うんだけど、いい意味で期待を裏切れた。初回に用意していた300枚が1日で売れちゃったし、予想以上に手応えはあったかな。

—生産方法も、これまでのバックパックとは違うのでは?

バックパックの工場ではタープは作れないからね。だから工場探しもゼロからスタート。もちろん紆余曲折あった。当初は紹介してもらった工場で生産していたんだけど、実は最初の1年くらいはほとんど販売利益がなかった。というのも、原価が恐ろしいくらい高かったから。

でも、いろいろ工場を当たっているうちに、台湾の一流工場に発注できることになった。コスト的にもリーズナブルになったし、何より縫製のレベルが格段に高かったから、クオリティも上がった。欧米の大手メーカーの生産工場でもあり、パーゴワークスの生産量なんかそれに比べたら微々たるものだろうけど、依頼を受けてくれた。これは嬉しかった。

毎回生産時には、現地の工場で検品する。

一般的にタープの素材はポリエステルかナイロン。そのなかで厚くて重いもの、薄くて軽いものなどいろいろある。あとは、コーティング。一般的には、ポリウレタンコーティングで、ごく稀にシルナイロン。

「ニンジャタープ」はシルナイロンを採用しているんだけど、ナイロン生地は伸縮性があるのでタープとの相性がとてもいいから。生地は裂けにくいリップストップ仕様で、リップストップの部分にはナイロン66というハイデンシティナイロンを使っている。かなり高密度の生地なので、耐久性もかなりいい。

シリコンコーティングは、水を弾くからすぐにパッキングできたり、濡れてもすぐ乾いたりというメリットがある。また、ポリウレタンのように加水分解しないので、その点も使い勝手もいい。ただ、ツルツル滑るので工場としては縫いにくいので扱いづらいという側面もあるんだけど、そんな難題もクリアして生産を受けてくれているのはありがたい限り。

縫いにくいシルナイロンは工場泣かせ。

—派生アイテムとして「ニンジャネスト」もありますね。

「ニンジャネスト」はパーゴ製品の中でもお気に入りのひとつ。軽くて超快適だからアメリカでも大人気みたい。もともとはユーザーからのリクエストで、「タープの下で寝たいけど、虫が入るから蚊帳が欲しい」という声に答えたものなんだよね。モスキートネットは他社のものを使ってもらえればと思っていて、パーゴで作るべきではないと思ってた。でも作るならしっかり「ニンジャタープ」と相性よくて、ちゃんとした空間になるものにしたいと開発することに。

最初は1人用だった。もともと個人装備だから1人が寝られればいいと考えていたんだけど、試作してみたら1人用も2人用もほぼ重さが変わらなかった。だったら2人用の方がいいよねということで2人用に。もちろん1人で使えばかなり贅沢な空間になるし、3人でも寝られるくらいのスペースはある。

単体で630gくらい。タープは当然ながらフロアレスだから、「ニンジャネスト」によって床スタイルのくつろぎ系のテントという使い方もできるようにになった。深めのバスタブ型フロアと広いメッシュパネルは、タープの開放感と、テントの安心感を両立させるのため。フロントを上げれば開放感があるし、風の通りもいい。一方でちゃんと塞いであげれば多少寒い時期でも使えるくらい快適性もある。

ニンジャネスト
NINJA NEST(インナーテント)との併用。

—「ニンジャシリーズ」はタープにはじまり、ネストという最強のオプションが加わりひとつの世界観が完成しましたね。システムが組めるようになって遊び方の幅が広がったというか。

そういう意味では、軸になっているのは「ニンジャネスト」。「ニンジャネスト」は「ニンジャタープ」と「ニンジャシェルター」のどちらでも使える。開発の順番はタープからはじまったけど、居住空間である「ニンジャネスト」を中心に、シーンや目的に合わせて「ニンジャタープ」や「ニンジャシェルター」を使い分けることもできる。

2015年に発売した「ニンジャタープ」だけど、年々売り上げが伸びている。時代が追いついたってことにしておきたいのだけど、キャンプマーケットが成熟したというのが背景にあると思う。感覚的には、2010年の時点ですでに成熟しきっていると言う印象だったんだけど、ファミリーからどんどん「個」の方にシフトしていって、個人装備である「ニンジャタープ」が注目されたんだと思う。

キャンプシーンというと、2000年初頭くらいにフェスが盛り上がって、アウトドア面白いじゃん、キャンプ面白いじゃんという潮流が生まれ、いわゆるキャンプ的なかっこいいスタイルができた。でもそんな人たちも歳をとって、家族キャンプになるとランクルに乗って、子ども連れて、大型のテントに泊まるみたいなスタイルに変遷していく。でも子どもが大きくなると大がかりなキャンプではなく、また「個」を求めるスタイルへと向かっていくと思う。

昨年発売したNINJA SHELTERもNINJA NESTとセットで使用できる。

—ずっと同じスタイルではなく、ライフスタイルのフェーズが変わるごとに嗜好も変わりますしね。

そこで「個」になるときに、高級なキャンプ道具を使っていた人たちは、こだわった自分だけの宝物みたいなもの、多少高くてもいいからいいものへとシフトしていった。その選択肢として「ニンジャタープ」を選んでほしいという思いがあったし、実際それが当たっているとも思う。

フェスのときに子どもだった世代は、きっと海外のマスブランドとかではなく、中華系の新興ブランドに向かっていくだろうし、世代や時代ごとにいろんなレイヤーがあるのもキャンプの面白いところだよね。

それに、シーンが成熟しているということは、安心して快適に遊べるということ。だいたいどれを選んでもそこそこ楽しいし、危ないこともない。でもそういうときこそ「遊び心」があって、「不便」さがあるような、「個性」のある道具が楽しくなる。そもそもアウトドアって不便じゃん、でも、その不便を快適にするための創造性が必要で、それを捻り出すのが醍醐味なわけ。その不便だけど想像力で乗り切るみたいなのが「ニンジャタープ」のコンセプトでもあるんだよね。

軽くて持ち運びにもよくて、簡単に張ることができて、しかも連結してみんなで楽しめる。UL的なところもありつつ、ブッシュクラフトみたいに自分のスキルや創造力で遊ぶスタイルにも対応できる。「ニンジャタープ」本当に可能性のあるプロダクトだと思う。

—キャンプ用のカジュアルなものは別として、アウトドアの道具のなかでもタープはかなり尖ったアイテムだと思うのですが、「ニンジャタープ」はそんなイメージ以上に受け入れられているように感じます。エントリー的なとっつきやすさもありつつ、沼のような深さもあるというか。

キャンプ場でさ、大きな外国のテントが並んでいて、ひょっとしたらテントサウナしているような横で、「ニンジャタープ」がちんまり自分の世界を作っているみたいなのって最高じゃん。キャンプはそういういろんな楽しみ方が共存できて、それぞれが自分の好きな方法で楽しめる幅の広さがいいと思うわけ。でも、それはSNSでユーザーがいろんな使い方をしているのを見て知ることでもあって。面白い使い方をしてくれていたときに、作ってよかったなって思うよね、ホント。

NINJA TARP

NINJA TARP


圧倒的な張りやすさと設営バリエーションを実現したタープ。
軽量コンパクトさとあいまってタープの可能性を広げます。

付属品:ガイライン6本、スタッフバッグ
サイズ:2800 x 2800mm (収納サイズ270 x 90 x 90mm)
単体重量:約395g
総重量:約500g
主素材:30Dナイロン シリコンコーティング

パスファインダー

時代を変え、ブランドの10年を支えた「パスファインダー」の軌跡

2021年は、パーゴワークスにとってはひとつの節目の年。というのも創業は2011年、つまり今年でブランドがスタートしてから10周年。そんなアニバーサリーイヤーを記念して、普段なかなか振り返ることのないパーゴワークスのヒストリーを紐解いていくのが、今回からスタートする「開発秘話」だ。

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