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2020.10.06

裏岩手縦走路3泊4日(若岡拓也)

「いいんだよ、グリーンだよ!」

胸の高さに達したヤブをかき分けます。連日にわたり、もっと深いヤブを漕いでいたせいか、これくらいなら楽なものです。後ろにいる仲間も同じことを考えていたようで、嬉しそうな声が聞こえてきます。

「いいねえ」
「そうですね」と返事をすると、その後の言葉がスゴいものでした。
「こりゃあ、ヤブじゃなくてグリーンだな」

言っていることの意味がわからずに、相槌を打つのがワンテンポ遅れます。
一瞬間を置いて、ああ、ゴルフ場のグリーンのことか!と気づいて吹き出してました。確かに昨日の3mほどあるヤブよりは快適。
けれど、決してグリーンじゃない。
目で抗議すると、

「いいんだよ。グリーンだよ!」  とCMで聞いたことのあるフレーズで断言されたのでした。

そう、この夏にチャレンジした東北縦走は最高に「いいんだよ!」ということで、みちのくの山々での足取りを、アンバサダーの若岡拓也がお伝えします。

そもそも、若岡って誰?

岩清水のごとく疑問が湧き出る前に、まずは自己紹介。

山だったり、砂漠だったりを1週間かけて踏破するランニングレースに出場。レース中の食事やウェア、寝袋などはすべてザックに背負って走るというスタイルの大会を好んでいる。

体を動かした後の甘いものはカロリーゼロと信じている。最近は、わらび餅のバウムクーヘンの新食感に感動。

若岡は左。なぜか縦走中によくしていたポーズ

東北縦走のきっかけは1つのメッセージから。

「150kmくらい奥羽山脈で縦走する?」
と誘ってくれた先輩・コウさんは、距離が距離なので多少は返事に迷うと思っていたそうです。

が、先輩がビックリするくらいの二つ返事で東北行きを決定。「学園天国」のコールアンドレスポンス的なノリです。

「Are you ready?」
「いえーい!」

そこからは準備もそこそこに行けばなんとかなるだろうと、未知なるトレイルを求めて、みちのくへ。東北の山はまったく行ったことがなかったので、どこに行ってもお初です。

縦走したルート

ルートはというと、牛乳でおなじみの小岩井農場に近い、御神坂(おみざか)ルートから岩手山に登り、ピークをつないで岩手と秋田の県境をなぞって北上。最後は秋田の森吉山に流れて下山します。

メンバーも未知数でした。
というのも、誘ってくれた先輩と会うのは2度目で、一緒に登るその友人2人とは初対面でした。

現地に到着して、まずはお互いに初めましてのお辞儀をぺこり。

あいさつと世間話もそこそこに、そのまま移動して早速登りはじめます。

初日からルート変更。

時刻は午前2時。標高差1600mをのんびり登って山頂でご来光を拝むはずでしたが、真っ暗な夜が明けてきたら、ガスで灰色に。

こ、これでは朝日が期待できません。
さらには標高が上がってくると、けっこうな強風も吹き荒れていました。

初日はみんなフレッシュ (左からアキさん、ヨネさん、若岡、コウ先輩)

悪天気だと、ピークを踏んでも特に楽しくない。 という結論に達してルートを変更です。

8合目の避難小屋から山頂をピストンせずに谷筋の登山道を行きます。本来ならピストンした後に、景色のいい尾根道を行くはずでしたが、まあ、それはそれ。

この変更に実はホッとしました。
天気もそうですが、こちらの思うようにいかないのが山であり、自然です。予想していないことも起こります。思いがけないことも受け入れるしかありません。

だから、その時々の環境、状況に応じて柔軟に予定や考え方を変えられる方が、山の旅を楽しめるというもの。同じように考えるメンバーばかりで、幸先のいい旅路です。

当初のプランと違っていたことがもうひとつ。 それは荷物の重さでした。

僕は4日分の食料、テント、ウェアなどを7kgほどに、先輩は10kg前後にまとめていました。それくらいなら、まだまだ走りやすい範囲です。先輩の友人、ヨネさん、アキさんのザックは15kgで、なだらかな斜面でも走るのがキツそうでした。ムリして走ったはいいものの、膝や腰を痛めては翌日に響いてしまいます。思い切って初日は60kmの行程を40kmほどに短縮です。

僕の2倍くらい背負っているアキさん

道中で先輩たちの仲間が顔を出してくれて、差し入れにお昼ごはんのラーメンとチューハイをいただく。

いただいたチューハイをその場でごくり。

誘惑に負けた結果、その後の登りがこれでもかというくらいキツい。
先輩からは「口数減ってたぞ」と後々いじられました。

急登を抜けると
 そこはニッコウキスゲの群生地でした。

夕暮れ前に乳頭温泉郷の孫六温泉に到着。湯治場っぽい雰囲気が湯気とともに立ち上り、いい感じです。

 温泉前のウッドデッキで小休止

ザックを下ろし、まずはひとっ風呂。
温泉に浸かり、ビールで乾杯して疲れを癒し、1日が終わる、、、

のではなく、先にある避難小屋を目指すことに。
地図を見てもたいした登りもなく、汗をかかない程度に行きますかと、この時点ではみんな余裕しゃくしゃくでした。先輩にいたっては、温泉で缶ビールを買ってビニール袋に入れて歩いています。

コンビニ帰りか。

中央が先輩。左手のビニール袋にはビールと水の計3kg

藪、やぶ、ヤブ、YABU、、

日没には着くだろうと思っていたら、想定外に濃密なヤブに行く手を阻まれてスピードダウン。

ヤブが編み込まれるように密接していて、ヤブ漕ぎするのも一苦労です。密集していて足元が見えないのはもちろんのこと、段差に足を取られて、転ぶこと、転ぶこと。

行けども行けどもヤブは終わらず。
温泉を出た後の余裕はなくなり、みんなの口数が減ります。ルート自体に危険な箇所はないので、暗くなっても黙々とヤブと格闘でした。ようやく抜けた後と思って進むと、またヤブが立ちはだかるという繰り返し。途中からは、もう登山道とはヤブのことなんだ、と考えを改めてウンザリする気持ちを鎮めます。

エンドレスに思われた悪戦苦闘は、それこそヤブから棒に終わりを告げます。

ヤブの隙間にひょっこりと立つ山小屋。あ、ここだ。

 明るい時間に見たヤブ。背丈より低くて通りやすい=いいヤブ

温泉を出る時は、1時間半もあれば着くと見積もっていた道のりに、結局は4時間近くかかっていました。

せっかく汗を流したのも水の泡。温泉で染み付いた硫黄の香りに、汗や泥フレグランスも体にまとい、なにやらスゴいことになっていますが、到着したらやることは一つ。酒盛りです。乾杯を済ませて、ここまでの行程を肴にビールを喉に流し込むのみ!

ちょっと臭うかも?
そうかもしれませんが、楽しければ「いいんだよ」。

こうして初日の夜は更けていくのでした。

2日目

初日は悪天候とヤブで景色を楽しめなかったわけですが、2日目からはバリーションに富んだ東北の魅力がいっぱいでした。

山から山へとつなぐたびに温泉。煙の数だけお湯が湧いている?日本有数の湯治場も
 天国の散歩道。気持ちがよくてコースタイムの3倍ほど時間がかかったのは内緒です。
 こちらも気持ちのいい稜線。
先輩にいったい、何が!?

東北での縦走初日はヤブに悪戦苦闘。何が起こるかわからない日々は、まさにヤブから棒でした。翌日からも引き続き、背の高い茂みをかき分けながら「天国」と「地獄」に足を踏み入れるのでした。

さて2日目に入る前に、改めてパーティーを紹介です。

先輩ことコウさん。ええ、襟付きシャツに、ハイカットのトレッキングシューズ。見ての通り紳士です。
アキさん、ULを目指していたのに、ザックが大きく成長しすぎちゃった……。
先輩ヨネさん、ムードメーカーにしてブレイクダンスもできます。「グリーンだよ」の迷言を生んだのはヨネさんだったはず。

2日目、野生とシェアするトレイル

ホウホウの体でたどり着いた山小屋からスタート。前日から引き続き、ヤブが深いルートです。

深いヤブがある。
つまりは、ひとけの少ない登山道です。代わりに道を歩いているのはクマ。行く先々でクマの気配が感じられました。 関東、アルプスなどのメジャールートならば、人の気配を察し動物たちも寄ってこないでしょう。

が、ここには登山者がめったに入りません。それでも、ヤブの中に、膝くらいの高さで道ができていることがあります。人ではない、野生の住民が行き来しているようです。そんな痕跡を見つけるたびに、同じトレイルを彼らとシェアしているのだと強く感じられました。

湿地は餌場になっているのか、踏み荒らされ、あちこちが食われていました。
道標はことごとく破損していました。ヨネさんが道標で遊ぶクマの様子を再現。
クマよりもけわしい表情だと思うのは僕だけでしょうか。
ヤブのち湿原、ところにより倒木。

キレイな登山道がなく、エスケープルートもありません。目の前に広がっている自然を受け入れ、黙々と進むのみです。

稜線に出るための登りの前で、ようやく踏み跡のしっかりついた登山道にたどり着きました。

踏み固められた地面の感触を足裏で確かめるように歩きます。ここは人間の方がよく通っているんだなあと、なぜかしみじみ。

ワイルドさに欠けて物足りないような気もしますが、応援にきてくれた先輩の仲間も加わり、もう楽しいばかり。気づけば登り終わっているのでした。大深岳の手前で稜線に出てからは、裏岩手縦走路の気持ちのいい尾根道が続きます。

晴れ間ものぞいて、ようやく夏山らしい気分に。ここから強風&曇天だったので貴重な瞬間でした。

3日目、茂みの先に待っていたのは地獄

八幡平で朝を迎えたものの、ずっと荒天で午前中は停滞。待っていても強風は吹き止まないが、多少弱まってきたタイミングを見計らって昼前に行動開始。八幡平を抜けて湯治で有名な玉川温泉を目指します。

ガレていて楽しい焼山周辺。

前半の2日間と同じように、みんなではしゃぎすぎて、アキさん、ヨネさんはザックでスレて肩が痛いとか。
肩が真っ赤になったアキさんと若岡のザックを交換。「痛くない!」とRUSHのホールド感を紹介して、アンバサダー的PR活動にも余念がありません。

しばらくはそのまま歩いていましたが「あっ、あれがあった」とアキさんが何かに閃いたご様子。ザックを下ろして、おもむろにその中をあさります。ゴソゴソした後に取り出したのはサンダルでした。それをショルダーストラップと肩の間に潜り込ませたら、ほらクッションが完成!

同系色のコーディネートで意外となじんでいます。「これで痛くない」とご満悦でした。
そして温泉の手前でも、ヤブは続きます。いつものごとくガサガサして進むだけです。

そして、ついに到着。玉川温泉です。もくもくと白い煙が上がっていて、周辺の山とはガラリと変わって岩肌はむき出し、背の低い草すら生えていません。火山活動の活発な地域によく見られる典型的な温泉といった様相、いわゆる「地獄」です。

煙の奥にはコポコポと湧き上がる源泉、一面に漂う硫黄の香り。地面を覆う岩に手を当てると、地熱でやけどしそうな温度のところも。

バスクリンも不要な源泉の色合い

思わず寝て湯治気分を満喫。地熱でポカポカしています。地獄とはいうものの、ここは温泉天国やで。すいません、エセ関西人になるくらいに取り乱していました。

近くの売店では、みそたんぽ、比内地鶏ラーメン、いぶりがっこなどご当地グルメとお酒をごっそり購入。YouTubeでヒグラシの鳴き声を聞き、井上陽水の「少年時代」を流しながら乾杯です(宴会が盛り上がりすぎて、写真を撮っていなかったことが悔やまれます)。

いよいよ「天国」へ 

最終日は、この旅で初めての快晴に恵まれ、朝から幸先のいい予感でした。こころなしか、みんなテンション高め。さらに盛り上げるように先輩が予告。きょうのハイライトは「天国だから」と。

しきりに言うものの、地上に天国などあるまい、だまされぬ!と僕は用心することしきり。

ブナ林で突如よろけてしまった先輩

「おっ、着いたな」

この日の目玉である赤水渓谷です。目の前には、澄みきった湧き水。小川になって流れています。ここから始まるせせらぎが「天国の散歩道」と評されるルートです。

ビーチサンダル+軍足に履き替え、小川に足を踏み入れます。ひんやりとした流水が心地いい。

天国は地上にありました。

遊びすぎて文字通り、深みにハマってしまいます……。そして、平均年齢40歳オーバーのおじさん達がはしゃぎすぎた結果、気がつけばコースタイムの3倍ほど時間がかかっていました。おぉ、なんということでしょう……。恐るべきは「天国」の魅力よ。 すっかり天国で骨抜きになった後は、最後のひと山・森吉山を登れば、あとは下りるだけ。

気分は軽やかでしたが、終盤にきて、やはり激ヤブです。

これまでよりも密度の高い、これはもうヤ、ヤ、ヤブ地獄。

これは予想外でしたが、さすがに4日目ともなると、みんな淡々と進めます。またコースタイムより大幅に時間はかかったものの、慎重に進んでピークを踏み、無事に下山したのでした。

ヤブに始まり、ヤブに終わる。

ちょっと冒険心をくすぐられる旅でした。何が待っているのか分からない、見通しの利かない道のりも、たまにはいいものです。 そんなことを言っていると、また激ヤブに連れていかれるかも……。

ヤブ蛇になる前に、今日のところは、これにて失礼します。

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