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開発秘話 vol.11 ZENN編
パーゴワークスが手がけるアイテムは、アウトドアで遊ぶための道具として一貫しつつも、いくつものジャンルを横断し、テント、焚き火台、クッカーといったように多岐にわたる。しかし数ある製品群のなかでもひときわ花形と言えるのが、やはりバックパックだろう。
トレイルランナーから絶大な信頼を集める「RUSH」、ハイカーに親しまれてきた「BUDDY」、背負子を現代版に再解釈した「CARGO」など、ユニークでエポックメイキングなアイテムを開発してきた。
2025年、そのラインナップに新たに加わったのが「ZENN」だ。「バックパックの再構築」を目指し、「無駄なものは削ぎ落とし、本当に必要な機能だけを磨きぬく」ことをコンセプトにパーゴワークスの新たなフラッグシップモデルとして登場した。
そんな「ZENN」について、開発の裏側を探っていこう。
– これまでのバックパックのシリーズのなかでも、「ZENN」はより挑戦的な設計のモデルだなと感じました。新たな領域のバックパックを開発しようと思った背景は?
「ZENN」に限らずなんだけど、パーゴワークスは自分たちが使いたいモノを形にして商売してきた。マーケットに要求されたからではなく、自分たちが起点になって発信してきた。
そのスタイルは変わらないんだけど、自分自身としては、代表でありつつデザイナーという立場でもありつつも、気づけばもうベテランなんだなと思ったんだよね。5年くらい前の話だけど、コロナ禍あたりの頃、自分のことを振り返る時間があって、そのタイミングですごい感じたのは、ずっと挑戦者のつもりだったけど、気がつけば年下の人たちが活躍してるし、マーケットの年齢も自分より下になってるし、スタッフも当然もっと若い世代だしね。
自分のキャリアで言えば、20代からデザインをはじめたから、もう30年近く同じことやってるんだなって。で、ちょっとここらで集大成じゃないけど、自分の代表作、気合の入ったものを一発作りたいなっていう気持ちが強くなってきた。

「BUDDY」シリーズは、日常的なものとして作ったんだけど、もっとその上に行けるモデルもほしい、作りたい、使いたいと思うようになった。ずっとあったんだけどね。バックパックメーカーとしては核心の部分だし。
パーゴワークスのラインナップを見てるとわかると思うんだけど、これまでは変化球なアイテムが多かった。新しいプロダクトを提案して、新しいマーケットを開拓したいという気持ちが強かったので、定番的なものは後回しにしてきたというのが理由。
でも、やっぱりここで一発定番的な普遍的なマイルストーンを作りたい。その思いは強くなっていった。
– ある種、コアな人向けのアイテムから、王道というか、ど真ん中をターゲットとする感じですね。
ユーザーやアウトドアショップの人とかから見ると、パーゴワークスって捉えどころのないブランドだったと思う。でもそれは半分意図的でもある。オセロに例えるなら、あれ、お前なんでここに白置いた? みたいな。こっからはじめるの?って。 自分の中ではそれが線としてだんだん繋がって、端っこと端っこを取って真ん中を埋めてくみたいな、そういう発想でもあった。
「RUSH」のラインナップもそう。最初は7Lモデルを出して次は28Lモデルだった。いまではその間の容量を揃えて、その間が線として繋がった。そんな感じでずっとやってきてるので、ようやくど真ん中の方に石を置くときが来たのかなという感じ。

– でも、その「ど真ん中」ゆえの難しさがあったのでは?
あったね。 ひとつはパーゴワークスの商品の柱にしなきゃいけないっていうプレッシャー。ブランドの顔にしなきゃいけないし、この先、5年、10年と、パーゴの顔になってくれる商品にする必要があった。成功させないとヤバイ、とはこのインタビューでは言いたくないけど(笑)。失敗してもいいやと、気楽に出したものとは違う。
– それは会社の運営的にも、自分のキャリア的にも?
両方かな。でも、開発時に考えたのは、やっぱりもう直球で行こうってこと。変化球ではなく、ゼロから考えはじめたとき、今の自分、今のパーゴの全力っていうのかな、それを出し切るには何がいいかっていうのが一番大事だった。話が前後しちゃうんだけど、 「ZENN」の開発は「BUDDY」の改良からはじまった。もっと軽くしよう、もっと丈夫にしよう、もっと別バージョンにしようとか考えていた。生地を変えたり、形を変えたりしてたんだよ。

でも、2021年ぐらいかな。やっぱり、これはゼロから作るぞって。その時に立てたのが、その「日本の山のためのバックパックの最適解」というコンセプトだった。
「日本の」っていうのがポイント。日本の登山製品マーケットを遡ると、もともとは欧米のスタイルを学んだり、真似したりして、独自に成長してきた背景がある。ULが入ってきて、一般化したのも最近の話。海外のアウトドアそのものは面白い文化だと思うんだけど、やっぱりなんか「外」から来てるっていう部分は否めなかった。
自分自身も大好きなんだけど、パーゴとしてそれで満足するのは嫌だなっていう気持ちもあった。 日本のブランドとして何ができるか。パーゴの製品は全部そうなんだけど、日本人のために作って、日本のフィールドで使いやすいものを開発するっていうスタイル。「ZENN」も同じく日本のフィールドで日本人のために作るっていうのはブラさずに開発に挑みたかった。

– 「日本の」とは、たとえばどのようなことを考えたのでしょうか?
海外の製品はその土地のローカルに適した仕様になってるので、必ずしも日本でそのまま使っても最適な道具とは言えない。不満が出るのは当然で、その不満って何だろうって考えた時に、日本の特徴である「四季」が関わっているのかなと思ったんだよね。
日本人の場合、日帰りとか、週末1泊もしくは 2泊ぐらいの山行が一番多いと思う。一度の日数は短いけど、毎週末のように行く人もいるし、山との距離はとても近い。ゆえに一年、四季を通じて山に親しんでいる人が多いと思う。
最近はお客さんがいるからタイによく行くんだけど、正直、装備がほとんどいらない(笑)。 雨が降ってもすぐ乾くし、寒くて死ぬこともないし、水だけ持っていればいいみたいな感じ。 要は山に対する危険が日本ほどない。とくに東南アジアはそういう山が多いかな。
でも、やっぱり日本は山も急峻だし、標高3000m級の山に行けば、環境も厳しくなる。だからこそしっかり装備も必要だし、安全なものも必要。あと、道具への価値観もある。日本人の特性としては、やっぱり道具をすごく大事に使う人が多い。パーゴワークスのお客さんにも、5年、10年前のモデルをいまも修理に出してくれる人がいる。思い出と一緒にずっと背負ってもらえるようなものづくりっていうのが、自分はしたい、というのもある。
– アメリカでもなく、ヨーロッパでもなく、アジアからの視点で日本のアウトドアシーンを俯瞰するのは興味深いですね。
アジア圏の人たちと会話すると、彼らはあんまりアメリカとかヨーロッパとかには憧れていない。むしろ日本をすごく見ている。日本人はアウトドアに関してはアメリカヨーロッパに憧れて取り入れてきたけれど、中国、韓国、台湾あたりは、嬉しいことに日本を見てくれている。その理由のひとつが、日本の自然の素晴らしさ、厳しさなんだよね。
自分たちからしたら当たり前のことなんだけど。あとは、パーゴワークスも見られてるんだなっていうのをその時感じた。欧米の物真似とかしてたらかっこ悪いなっていう気持ちもあるし、自分たちにまだまだ価値があるんだなっていうのも気がついた。
パーゴワークスがやってきたこと、やろうとしていることは間違いじゃなかったとも思わせてくれたかな。そういう意味でも、「ZENN」の開発は「日本の山」から生まれたプロダクトであるべきなんだよね。

– 実際に、どのようなプロセスで開発がはじまったのでしょうか?
バックパックの基本機能は、ものを収納するっていう機能と、背負うっていう機能、そのふたつに分解できると思ってて、今回の開発もそこからスタートした。
最初は軽くすることを念頭に置いていたので、どれだけ少ないパネルとパーツで構成できるかを考えた。お手本にしたのはクライミングパック。昔からだけど、細身のパックが好きなので。 細い方が潔くパッキングできる。自分の荷物なんかをパッキングしながら検討していった。だから、いわゆるULパックっぽいのも試作したし、クライミングパックみたいなのも作ったね。

ポイントになったのは収納。やっぱりエキストラの収納って、みんな求めるところなんだと思う。最近ではメッシュポケットかな。「BUDDY」にも採用しているけど、俺素直じゃないんで(笑)。メッシュにするとULパック作ったなと思われるのが嫌だなと思っちゃってさ。
– メッシュポケットが受け入れられやすいとわかっていながら、そこを採用しなかった。
メッシュが嫌いとかそういうのはないんだけどね(笑)。メッシュバージョンも試作したけど、機能的な面で言ったら、やっぱりひっかけやすいとか性能的にネガティブな部分もある。
でも、パーゴからULパックが出た、と受け取られてしまうと、そもそもの「ZENN」のコンセプトが伝わらなくなってしまう。だからこそ、え? 何これ? ってちょっと違和感を出したかった。これって何なの? ULパックなの? 何? 普通のパックなの? 軽いの重いのなんなの? って。

– そこで、メッシュポケットではなくアタックパックのような設計になったと。
考えたのが山小屋の存在だった。日本の山の特徴のひとつが、山小屋のある環境。山小屋に荷物を置いて、山頂にアタックするみたいなスタイルは昔からあると思う。その行動を考えたとき、フロントポケットをはずして使えたらいいなと思ったんだよね。
ここから開発の核心に入っていくんだけど、「モジュール設計」を取り入れて、背面とポケットを取り外せる仕組みを考えはじめた。ポケットに関しては、オプションでいろんな仕様のものを付け替えられるようにできないか検討した。これも四季を通じていろんな遊び方ができる日本の山を想定したからこその発想だったと思う。
最終的には、ハーネスとかベルトをすべて取り外した時に、何も残らない方がいいなと思った。 ポケットを外した時の姿をなるべくシンプルにしたかった。余計なものはいらないという人は外してもらっていい。商品的にはもう全部入りで売ってるんだけど、削る楽しさ、いらなかったら使わないでっていう気持ちだね。

– 「ZENN」ならではのユニークな構造はありますか?
ハーネスの取り付けは紆余曲折あった。最終的にベルクロ留めにしたんだけど、途中段階ではアルミフレームにレールを渡して固定する仕組みも検討した。昔からあるやり方なんだけれど、やはりとても合理的ではある。
これまで、さまざまなアウトドアメーカーがここに注力してきた。背中をどうやってフィットさせるか、どうやって荷重分散するかに、テクノロジーを注ぎ込んできた歴史がある。
自分はその考えがベースになってる。渦中にいたからね。背負い心地とか、背面のフィット感が大事だって思っているし、その解決策をいかにシンプルにするかも大事だと思っている。
「ZENN」では、背面の調整にはベルクロを採用している。ベルクロって横方向にはかなり強い。これだけの面積があれば剥がれることはまずない。ただ安定感を高めるために樹脂のパネルを入れている。

開発時に苦労した点としては、ショルダーハーネスの取り付け位置。おおよそ下から45cm〜50cmくらいの間が一般的なんだけど、「ZENN」は調整幅が非常に広く44~54cm。そのため、1サイズで身長155cm〜180cmくらいまでカバーできる。それを可能にしたのは、このショルダーハーネスと背面が一緒になったオープンな構造。ベルクロで背面を調整できるだけでなく、上下の自由度も確保できる。
「ZENN」に関してはショルダーハーネスの支点を10cmほど下げている。肩甲骨あたりに支点を持ってくることで、ハーネスを体にしっかりフィットさせることができた。「ZENN」はハーネス上部の追従性が高く、ハーネスと背中の間に隙間ができにくい。これが高いフィット感を生み出している。体型に合わせて上の方で背負ったり、自由度も高くなっている。この背面の作りはね、結構苦労したというか、気合を入れて設計したところ。

– やはり、「ZENN」はモジュール構造により、ユーザーがさまざまなセッティングを試せるのも面白いですね。
他のメーカーも「調整ができる」はやってる。でも、「完全に分解できる」は前例がないんじゃないかな。ユーザーが自分で調整を突き詰められるようにすることのメリットを感じたのは、「RUSH」で学んだこと。「RUSH」もショルダーハーネスやウエストを調整できるようになっていて、自分で自分にフィットさせられるようにした。
トレイルランパックではそれまでなかった仕組みだったんだけど、すごく受け入れられた。みんな学んでやってくれるという経験があったので、「ZENN」に関しても「RUSH」での知見を落とし込んでみた。

– 「モジュール設計」のオプションパーツも続々登場しましたね。
「ZENN」の「ランニングハーネス」はボトルがしっかり入る「RUSH」と同じ設計で、熱がこもりにくいメッシュ素材を採用。一方で、雪の付着がなく、耐荷重も高めた「スノーハーネス」もリリースした。ユーザーの遊びに合わせて選べるようにしている。
パーゴワークスの仲間には、TJARに出る、トレランの100マイルレースに出る、海外遠征に行くといった、ユニークなアスリートがいる。彼らのリクエストでカスタマイズを行うことも少なくない。しかしリクエストの実現が一発でできるわけではなくて、何度も何度も作り直すこともある。でも、そんなときでもモジュール設計にすることで開発のスピードと精度が上がる。
さらに修理対応も早くなる。バックパックのハーネスが壊れたなら、ハーネスだけ送ってもらうってことも可能だし、交換することも簡単。

ちなみに、このモジュール設計は工場での生産合理性もすごく優れている。生産ラインを分けられるから、こっちのラインでハーネス、こっちのラインでパックを作ることができる。一般的にはひとつのラインで順番に作っていくので、工程をパラレルにできることで生産合理性が非常に高くなる。
パーゴワークスみたいな小さいメーカーだと商品数を簡単には増やせない。「ZENN」の3モデルはポケットは全部共通だし、背面に関してはZENN35とZENN45は共通になっている。でも、このモジュール設計は家具とか車の生産では一般的で、なんでこういう発想でバックパック作らないのかなって思ってたくらい。ようやく「ZENN」でできたのは感慨深いことだね。
– 最後は、やはり「ZENN」というネーミングについてお伺いしたいです。
「全」からはじまって、削ぎ落とす作業をつづけているうちに「禅」という言葉も思い浮かんだ。そして、日本の四季を「全て」楽しむための「全」でもあり、カスタマイズすることであらゆるリクエストに応えるための「全」でもある。
開発のプロセスは禅問答。何を足して何を引くか、どこまで引けるのかという世界。山もそう。自分と向き合う行為であり、問いかけでもある。ただ、「禅」という意味だと「ZENN」が超ミニマリストなもの、という解釈になってしまう。
冒頭に言ったように、「ZENN」はパーゴワークスの、そしてデザイナーとしての自分の集大成みたいな存在にしたかった。「全」であり「禅」でもあるけど、「N」をひとつ足しているところが、既存のなにかではない、オリジナルなものをつくりつづけたいという思いの表れでもあったんだと思う。

(写真:アメリカ・PCTトレイルのセクションハイクでテストしている様子)